飛蝗者
そうして、芸術家に噛まれて芸術家となった私は今、元凶となった男と居酒屋で向かい合って座っている。

男は最後に会った時と変わらずに、年齢不詳のままだった。

茶色に染められた髪は耳を覆い隠しながらうなじに沿って襟足が伸びている。
眉に被さる前髪には金色のメッシュが縞々に入っている。
瓶底の眼鏡の奥には切れ長の、私とよく似た目があって、私よりずっと長いまつげが涙袋に影を落としていた。

身長は180cm近くあり、かなりの痩せ型。けれどあの日触れた胸板は、腹部は、肩は、背中は、固く厚く、間違いなく男のそれであった。

この人は、女のために作られたような見た目をしていて、女を喜ばすような才能を持っていて。きっと女のために生まれてきたのだと思わずにはいられない。

ころころと変わる表情も、ご都合主義な人生観も、わがままで周りを振り回すところも、生活を貧窮させるほどの浪費癖も、この整った容姿にはすべてプラスとして働いていて、実際私もこの人のことが男としては好きである。

< 18 / 25 >

この作品をシェア

pagetop