飛蝗者
何か言いたかった。言いたいことは山ほどあった。
けれどどれもがふさわしくないように思えて、私は結局つまらなかった。

「LINEのホーム写真、あれ、いつのやつ」
結局、まず言えたことがそれだった。

「会社の先輩と行ったRADのライブ」

何でなんて訳も聞かずに正大はすぐにそう答えた。
RADのCD1枚も持ってないじゃない。私が言うと、置いてきたからね、と正大は返す。
実家に?そう訊ねてみると、会社に、と即座に訂正された。

それでようやく私は彼を抱きしめるのをやめた。
膝に乗ったままで彼の表情を眺めながら、「本当に?」と聞いてみた。
正大は表情を動かさないままで私を真っ直に見つめ返しながら本当だよと言った。
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