飛蝗者
そうまでしてでも、私は正大を逃がしたくはなかった。実父と正反対の男である彼を、みすみす手放すわけにはいかなかった。
けれど、そんな私の内情が知れてしまえばきっと、彼はすぐにでも荷物をまとめて出ていってしまうだろう。
だから私はできる限り彼に無関心であるよう装ったし、理解しているからこそ、一定の距離を置き、自身の諸々な勝手は犠牲とした。

このようにして私は、多忙であり世間様にも必要とされる有能な理系男子を、2ヶ月もの間ライトに軟禁している。

多大な罪悪感からの逃げ道は、彼に対するささやかな生活の援助、それから自らの身体の提供である。

つまり、私は某国立大学の研究員に片想いをしている最中だ。
< 5 / 25 >

この作品をシェア

pagetop