小悪魔なキミに恋しちゃいました。
「ちょっと待ちなよ」
「……えっ」
早くここから立ち去りたいのに……
それを阻んだのは、この私の腕に絡まっている大きな手の持ち主、結城くん。
その迷惑そうな顔からして、早く私に立ち去ってほしいと思っているくせに、なぜ止めるのか。
私は、キッと鋭く結城くんを睨んだ。
「僕を睨みつけるなんて、珍しいね」
そう言って、営業スマイルとは別の笑みを浮かべる。
「そのままじゃ、返さないよ」
「えっと……意味がわからないんですけど」
結城くんが一体何を考えているのか、全くと言っていいほどわからない。
「僕のこと、他の人に話されると困るんだよね」
まぁ、そうでしょうね。
そう思うけれど、実際に言葉にして返す勇気はなく、そのまま心に留める。
「……言うわけないじゃん」
本人は優しい王子様でありたいみたいだから、素性を隠したがっているけれど、私がこのことを広めたからと言って、信じてもらえないだろう。
しかも結城くんにとってメリットしかない気がするから、バラそうなんて気持ちはもうどこかへ消え去った。