君があの子に、好きと言えるその日まで。完
ただただ、一之瀬君のストレートな言葉が、胸の中にあったどっちつかずの感情を殺した。

「翔太からしたら今のもっちーはさしずめ生徒Fくらいかな」

「な、なにが言いたいの一之瀬君……」

「あ、今ムッとしたね? せめて生徒CかDくらいがよかった?」

煽られて、カッとなって、私は気付いたら一之瀬君の肩を叩いていた。

でも、一之瀬君は寸前のところで私の手首を掴んだ。

「好きなんじゃん、やっぱり。認めなよ」

痛く感じない寸前の力で、一之瀬君は私の手首を掴んで離さない。

「好きなら認めなよ。認めないと、諦めることもできないよ」

それだけ、と言って、彼はストンと窓から降りて、教室から出ていった。

彼はドアを閉める直前で、『もっちーのためを思っての、忠告でした』と呟いていた。


私が星岡君を好き?

仮にそう認めたとしても、私はなにかしようなんて思わない。

どうせ進学とともにバラバラになる。誰だって、いつかは。

私は、目の間の幸せに飛びついて行動なんかできない。だって怖い。いつか訪れるなにかが怖い。



好きになりたくない。

そう思って、この一年間、関りを持たずに、過ごしてきたのに。


『やめろよ、感じ悪ぃーぞ』。


あんなたったひと言で、どうして。

胸の中がずっとザワついている、昨日から、ずっと。ずっと。



できれば、叶わない恋はしたくない。

きっと、皆そう思っていて、それなのに、自分の気持ちと戦っているんだな。

それって、すごいな。勇気がない自分が、今すごく恥ずかしい。


「すごいな……、みんな……」


好きな人に好きになって欲しい。

そんな願いが叶うことなんて、奇跡に近いと分かっていても、誰かを想う。行動する。努力する。



それが恋なのだとしたら、恋のほとんどは、勇気だ。
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