君があの子に、好きと言えるその日まで。完
一之瀬君が、チラッと私の方を見て、勿体ぶるようにそう呟いたので、いいよと言いつつ手の平を耳の横につけてダンボのようにした。

行動と言葉がチグハグだと頭を小突かれたけれど、一之瀬君は私の耳に口を近づける。

「翔太のパジャマは紺地に宇宙柄だよ」

「どうでもいいし嘘でしょう」

深刻そうな顔で声を潜めたので、なにを言うかと思いきや、てっきり騙された。

私は一之瀬君の肩を小突いて深いため息をついたが、彼は即答すぎでしょう、と言って笑っていた。

「翔太、一度も来栖先輩に告白したことないんだよ。したことないというか……できないんだ、これからもずっと」

「え……、なに」

「一年前のできごとがあってから、翔太の恋は凍っちゃったんだ」

一年前って、ちょうど私が転校してきた頃……?

なんの前触れもなく重要なことをさらっと言われてしまったので、私は全てを上手く聞き取れなかった。

告白できないって、一体どういう状況だろか。そりゃあ、今の私みたいな理由で気持ちを伝えられない人はいるだろうけど、これからもずっとできないなんて。

もっと聞きたい、知りたい、だけど駄目だ。


だってきっとそれは、星岡君の、誰にも触れられたくないことのように思えるから。


「あ、翔太ー、おはよ。この前借りた漫画返すわ」

一之瀬君が、私の背後に手を振ってから、何事もなかったかのように星岡君の元へ歩いていく。

一之瀬君のポーカーフェイスは本当に恐ろしい。私は、星野君の名前を聞いただけで肩をびくつかせてしまったというのに。

「望月ー、体育祭の実行委員の集まりって今日だよな?」

漫画を受け取っている星岡君から不意に声をかけられて、私はまた動揺してしまった。

振り返ると、星岡君が真っ直ぐに私を見て、首を傾げている。

「うん、今日! 忘れないでね」

「おう、忘れるから、行くとき声かけて」

「そんな自信満々に言われても……」

呆れたように返すと、嘘だよ、と言って星岡君が爽やかに笑った。

こんな些細なことで胸がきゅっと締め付けられてしまう自分がいる。浮かれるな、と自分に言い聞かせて、予習ノートを意味もなくペラペラとめくってしまった。

星岡君にこんな気持ちを抱いた人は、この学校にきっと五十人はいるだろう。
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