君があの子に、好きと言えるその日まで。完
分かってしまった
来栖先輩と会う日が、とうとうやってきたのだ。
約一年間部活動を休んでいた来栖先輩とは、まったく関わりを持っていなかった。
三年生の体育の授業とか全校集会とかで、遠目で見たことはあったけれど。
来栖先輩は、とくに挨拶もせずに、普通に再開したいとの希望だったので、今日も部活動はいつも通り始まった。
だけど、一、二年生の美術部員の教室は、いつもより少しざわめいていた。
「ねぇ、もう来栖先輩来たのかな?」
同じ二年生の、ショートボブが印象的な都築ちゃんに声をかけられて、私はパレットで絵の具を解すのを止めた。
都築ちゃんは元々噂話の大好きな女の子だけれど、今回の件でざわついているのは彼女だけではなかったし、それほど来栖先輩の存在感は大きいのだろう。
私も、星岡君の好きな人、という認識が先回りして、どんな人なのか頭の中で妄想は膨らみ続けていた。本当は今すぐ三年生の教室を覗きに行きたいくらいだ。
「理由も理由だし、こうして部活動にまた復帰できて本当によかったよねー」
都築ちゃんは、腕組をしながら神妙な面持ちでそう呟いた。
そういえば転校性の私は、来栖先輩が一年間休んでいた理由を知らない。
もしかしたら、あの日星岡君が泣いていた理由と、なにか関わりがあるかもしれない……。
そう思ったそのとき、教室の扉がガラッと開き、ロングヘアが似合う儚げな雰囲気の生徒がぴょこっと顔を出した。
都築ちゃんが、小さな声で来栖先輩だ、と呟いた。
私も彼女が来栖先輩だとすぐに分かった。
なぜならあの日、血相を変えて星岡君を探しに教室に入ってきた先輩と、やはり同じだったから。
「皆、久しぶり。別の教室だけど、今日からまた来るから、よろしくね。元部長なのに、いきなり来なくなってごめんね」
柔らかく目を細めて微笑む来栖先輩は、一歳違いとは思えないほど上品で、大人っぽかった。
この人が、星岡君の好きな人……。自分が勝てそうなところがひとつもなくて、劣等感を抱くよりも先に、本当に見惚れてしまった。
部員の皆は、来栖先輩の言葉にふるふると首を横に振って、こちらこそよろしくお願いします、という声がちらほらと聞こえた。
「あと、転校生の子が入ったって聞いたんだけど、今いる?」
「あ、はいっ」