君があの子に、好きと言えるその日まで。完
まさか呼び出されるとは思ってもいなかった私は、不意打ち過ぎて必要以上に大きな声で返事をしてしまった。

来栖先輩は私を見て、再び目を細めて笑いかけてくれた。

「さっき顧問の原先生が呼んでたよ。私も先生に用事があるから、よかったら一緒に行かない?」

思いもよらない提案に、私はかなり動揺していたが、すぐに席を立って来栖先輩の元へ向かった。

私が緊張しきっていることが他の部員にも伝わってしまったのか、望月ちゃん落ち着いて、と笑われてしまった。

教室を出て、来栖先輩と並んで歩くと、思った以上にすらっと背が高いことに驚いた。

本物のモデルみたいだ……そんな風にどきまぎしながら来栖先輩を見上げると、彼女の方から話しかけてくれた。


「今年の体育祭のポスター、あなたが選ばれたんだってね。すごいね」

「いえそんな、たまたま得意な題材だっただけで」

「謙遜しなくていいのに。すごい転校生が入ってきたって、三年生の間でも噂されているみたいよ」

「きょ、恐縮です……」


来栖先輩は、ガチガチのまま話している私がおかしかったのか、今度は噴き出すように笑ってくれた。

職員室までの道のりは結構長い。

星岡君に助けてもらったあの渡り廊下を渡って、教室を通り過ぎてから一番奥の階段を下ったところにある。


「そういえば、自己紹介してなかったね。私来栖翠(クルス ミドリ)。一応元部長です」

「あ、望月です。先輩のことは、よく名前も聞いていたので知っていました」

「え、そうだったの。まあそうだよねえ、突然一年休んだし……」

来栖先輩の表情が一瞬暗くなったのを見て、私は恐る恐る気になっていたことを口にした。

都築ちゃんに聞くことだってできたはずだけど、噂なんかじゃなくてどうしても本人から聞きたかった。

「……すみません、あの、先輩、ひとつだけ聞いてもいいでしょうか」

ちょうど渡り廊下に辿り着いた時、私はその場に立ち止まって、先輩の瞳を真っ直ぐに見つめた。

初対面なのにこんなこと聞くの失礼だってわかっている。でも、来栖先輩の口から、知りたい。一年前、何があったのか。

「先輩が休んでいた理由って……」

俯きながらそこまで口にすると、不安げな私とは反対に、来栖先輩ははっきりとした声で答えてくれた。


「……妹が事故で死んだの。それで、色々と家の中が大変でね」

< 17 / 104 >

この作品をシェア

pagetop