君があの子に、好きと言えるその日まで。完
胸が千切れそう
『来栖先輩、星岡君に会いたがってるよ』。
そう言った時の、星岡君の切ない表情が頭から離れない。
何も知らないふりをして、来栖先輩のことを話題に出してみたけど、やっぱり星岡君は来栖先輩のことを想っているんだ。
星岡君は、あの日誰に充電器を貸したのか、覚えているかな。
とてもじゃないけど、怖くて聞けないよ。
そんなことを考えているうちに、あっという間に体育祭前日になってしまった。
星岡君との接点がなくなることに、どこかでほっとしつつも、やはり少し寂しいという気持ちがある。
私は、一体どうしたいんだろう。どうすればいいんだろう。
「もっちー、暗い顔してどうしたんだ。何か悩みでもあるのか」
「ちょっと、一之瀬、勝手に割って入ってこないでよ。依にちょっかい出さないで!」
三木ちゃんと教室でお弁当を食べていると、一之瀬君が勝手に椅子を持ってきて、私の顔を覗き込んできた。
三木ちゃんは明らかに鬱陶しそうな顔をして、一之瀬君を払いのけようとしたけれど、星岡君がそこにやってきたので、払いのける手を止めた。
「一之瀬、ほんと望月のことお気に入りだよな」
「呑気に牛乳飲んでないで、こいつ回収してってよ。星岡が唯一の友達なんだから」
委員会で話すことが増えたからか、あれから星岡君とも話す機会がふえつつある。
といっても、一之瀬君が私にちょっかい出してくるからなんだけど。
一之瀬君が私に構う理由は、私に冷たく警戒してしまったことへの罪悪感なのか、よく分からないけど、どうでもいいことで話しかけてくる。
私はお弁当のミートボールを食べながら、三木ちゃんと一之瀬君の犬猿の仲のような掛け合いを眺めていた。
「望月、明日ついに体育祭だな」
突然星岡君に話しかけられたので、私はドギマギしてしまい、ミートボールを喉につまらせかけた。
星岡君の無邪気な笑顔は、やっぱり人懐っこくて、犬みたいでかわいい。
「うん、頑張ろうね! ラジオ体操人前で上手くできる自信ないけど」
「望月下手そうだなー」
「星岡君、最近遠慮なくなってきたよね」
そう言うと、星岡君はまた、太陽みたいに明るく笑ってくれた。
そんな私たちの様子を、一之瀬君がじっと見ているのを感じた。
大丈夫だよ、好きにならないから。
もう私にはそんな資格はないって、分かったから。