君があの子に、好きと言えるその日まで。完
声もちゃんと出せない自分が情けなくなって思わず謝ると、男は喉仏があるから、というよく分からない返答をされた。

恐らくフォローしてくれたのだろうけど、この年になっても人前で大声を上げることが苦手なんて、なんだか少し恥ずかしい。

私もどこかで役に立たなきゃ。そう思えば思うほど、さっきから星岡君に助けられてばかりな気がする。

皆に配る用のお茶も重いからという理由で持ってもらったし、司会への伝達も走るの早いからという理由で任せてしまった。

それなのに星岡君は少しも嫌がるそぶりを見せない。

きっと、どんくさいやつって思われてしまった。


「私、ちょっと水飲み場でお水飲んでくるね」

「え、わざわざスタジアム裏の水飲み場まで行くの? お茶あるのに」

「み、水が無性に飲みたくて! ごめんねすぐ戻る!」

星岡君は慌てた様子の私を見て首をかしげていたけれど、私は足早にその場から去った。

もう一度進行表を確認して、スムーズに誘導できるようにしなきゃ。これ以上星岡君に迷惑かけたくない。

そう思って、私はスタジアム裏の陰で、進行表を確認していた。

すると、そこに競技を終えたのかさぼっているのか、ふらふらと三年生の女子生徒がやってきた。

きっと日向で涼みに来たのだろう。気まずく感じて一歩横に移動すると、その先輩たちが話しかけてきた。


「ブルーのハチマキってことは、二年生? さっき翔太と一緒に走り回ってた子だよね」

あ、この人たち、どこかで見たことあると思ったら、サッカー部の女子マネージャーの先輩二人組だ。

サッカー部のマネージャーは派手な人が多くて目立つから、なんとなくだけど覚えていた。

つんと跳ねたアイラインや、バサバサのまつげが少し攻撃的で、突然話しかけられたことに動揺してしまった。


「翔太って、やっぱりクラスでもモテてんの?」

「モテ……てるとは思いますが、ごめんなさいよく分からないです」

「あ、あんまり話したことない系?」


思わぬ質問をされ、私はなんとか濁して適当にこの場から去ろうと思った。

そんなこと私に聞いたって、答えづらいしなんて言ったらいいのか分からない。

それに、なんだかバカにしたような口調で聞かれたことに、少し違和感を抱いた。


「え、もう行っちゃうの? もしかして、翔太のこと好きだったり?」
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