君があの子に、好きと言えるその日まで。完
「やめなよ、図星だから立ち去ろうとしてるんじゃん」

「あ、そっかー、ごめんね。翔太やっぱりモテるもんねー」


背を向けた瞬間、彼女たちは今一番言われたくない言葉をぐさぐさと刺してきた。

……なんで、今会ったばかりの人に、こんなに傷つけられなきゃいけないんだろう。

なんで、今会ったばかりの人に、こんなに下に見られなきゃいけないんだろう。


好きって気持ちを、勝手に踏みにじられなきゃいけないんだろう。


怒りで、握りしめた手にぐっと力が入った。

でも、怒りよりずっと、羞恥心のほうが大きくて、私は顔を真っ赤にしたままその場に立ちすくんでしまった。


私だって別に、好きになりたくてなったわけじゃない。

今、必死で忘れようとしていたのに。気持ちを抑えようとしていたのに、どうしてこんなことを言われなきゃいけないんだろう。


あ、やばい泣きそう。

駄目だ、泣くな、なんか言い返せ。


「……好きですよ、だったらなんですか」


声は震えていたし、怖くて先輩たちの目も見ることができなかった。

こんな自分、ダサすぎる。でもここで言い返せなかったら、本当に自分の気持ちが死んでしまう気がしたから。


どうにもならないけれど、これは私の初恋だったから、誰かに壊されたくなんかない。


少しずつお湯に溶かすみたいに、ひっそりと終わらせたいんだ。自分ひとりで。


「……先輩たち、何してるんですか。うちのクラスメイトいじめて」

……その時、頭上から低い声が聞こえて、私はすぐに顔を上げた。

そこには、珍しく起こった様子の、一之瀬君がいた。


「何よ一之瀬、いじめてなんかいないんですけど。ちょっと話しかけたらあっちが勝手に感情的になっただけだよ」

「黙れよブス」

「はあ!? なんなのアンタまじ、本当失礼……!」

「ちょっと派手にしてるからって、カースト上位になったとか勘違いしてんじゃねーぞ。自分より目立ってないやつ勝手に見下すな脳なしギャル」

一之瀬君の口から、今までの人生で聞いたことのない汚い言葉が出たことにぽかんとしていると、一之瀬君に腕を引かれた。

先輩たち二人は、そりゃあもう般若のごとく顔を真っ赤にして怒っていたけれど、一之瀬君はそれを一切フォローせずに私を引っ張り歩いていく。
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