君があの子に、好きと言えるその日まで。完
◯
「は、はじめまして、望月依(モチヅキヨリ)です。引っ越しでバタバタしていて、入学式には出られませんでしたが、よろしくお願いします」
皆の視線が集まる中、私はテンプレート通りの自己紹介を済ませ、無理矢理口角をぐっと上げる。
いくら人生で七回目の自己紹介だからと言って、元々人前に出るような性格ではないし、こうして自分の第一印象と立ち向かう瞬間は緊張する。
先生に案内された通り、一之瀬君という少し気だるげな男子の隣に座ると、彼は物珍しそうに私に話しかけた。
「こんな時期に引っ越しなんて、転勤族なの?」
「あ、転勤族です」
「へぇ、大変だねぇ」
「いえいえ、そんな、もう慣れたもんで……」
急に直球な質問を投げられて驚いたけれど、私は彼の感情を読み取れない瞳に気圧されてしまい、なぜか頭を下げていた。
そんな話題に、前に座っていた女子が食いついてくれた。
「そうなんだっ、じゃあ静岡に来るのは初めて?」
好奇心に満ちた大きな瞳を私に向けてくれた彼女は、彼女の質問にこくこくと頷く私を見て、人懐っこく笑った。
「美味しいもの、沢山教えてあげる。あ、私三木麻琴ね、よろしく」
「こいつの味覚センサーは狂ってるから当てにしない方がいいぞ、まじな話」
「一之瀬は黙ってて本当に」
元の中学が同じなのかな……? と思い問いかけると、中学が同じだけでなく家も近いらしい。
この近辺でそこそこの偏差値の高校はここぐらいしかなく、元中が同じ生徒は少なくはないのだとか。
腐れ縁だと言いあう彼女たちの掛け合いに、少しずつ気を張っていた心が優しく解けていくのを感じた。
根拠のない自信が湧いてきて、なんだかやっていけそうだなあ……と、心の中でそっと呟いた。