君があの子に、好きと言えるその日まで。完
たとえ恨まれていたとしても 翔太side
体育を終えると、季節はあっという間に移ろいで、気づけば初夏へと突入していた。
ブレザーや薄手のカーディガンを羽織っていた女子たちは、白シャツだけの格好になり、男子たちには嬉しい季節となった。
女子の誰の下着が透けていたとか、ポニーテール姿が可愛かったとか、そんなしょうもない話ばかり浮上する。
俺は、うちわで顔を扇ぎながら、ぼうっとその話を聞き流していた。
ここはサッカー部専用のロッカーで、部屋は男臭さと汗臭さで充満している。
部活動を終えた俺たちは、着替え終わった後もだらだらとこの部屋に残ることが多く、スプレーを体に噴きかけて火照った体を冷やしていた。
それは、代わり映えのない、いつもと同じ光景だった。
だけど最近、変わったことがひとつある。
「翔太、今日暇だったらもっちーのところ行こうぜ」
「いいけど……、お前作品づくりの邪魔すんなよなー」
「大丈夫、十八時以降は自由時間って聞いてるし」
……一之瀬が妙に美術室へと足を運ぶようになった。しかも俺を巻き添えにして。
本人はハッキリ言わないけれど、恐らく望月のことが好きなんだろう。
一之瀬はとっつきにくいけど、見た目が男前だから(中身をよく知らない)後輩にはよくモテている。
今までの付き合いで、一之瀬が自分からアプローチするなんてことはなかったから、俺は少し彼の行動に驚いていた。
「お前さ、望月のこと……」
好きなの? と聞いてしまいたかったけれど、なんとなく止めた。
それを聞いてしまったら、望月とどんな風に話したらいいのか分からなくなってしまいそうだったから。
……望月は、すごくいい子だと思う。
体育祭のときも、すごく一生懸命に動いていたし、緊張しいなりに頑張ってた。
適当にやっときゃいいのにって思うことも、バカ真面目に取り組んでいて、なんだかこの子には嘘をつけないなって気持ちになった。
一之瀬が彼女に惹かれる理由も、分からなくもない気がする。
まあ、こんなこと言ったら、一之瀬は嫌がるだろうけど。
「行こう、消しゴム用の食パンくれるかもよ」
美術室は、いつも油絵の具の独特のにおいがする。
最初はツンと突き刺すようなにおいに感じるが、鼻が慣れると、べっとりとくっつくような、重たく沈んだにおいに変わっていく。