君があの子に、好きと言えるその日まで。完
駅までの道は長く、夕方だというのに歩いているだけでじっとりと汗ばんでくる。
たまにしか車の通らない道路沿いを、こうして一之瀬君と二人きりで歩くのは何気に初めてのことだった。
気温のせいか、風邪のせいなのか、熱くて頭がぼうっとしてくる。
だから、頭に浮かんだことがそのまま口をついて出てしまった。
「……この前、知ったよ、星岡君が来栖先輩に思いを伝えられない理由」
「え……雛のことも?」
「うん、来栖先輩が泣きながら、話してくれた……」
一之瀬君の顔を見ることができない。深入りしすぎだと思っているのか。
一歩一歩がさっきよりずっと重く感じる。駅まではまだまだ距離があるというのに、なんだか頭が回らない。
「私さ、先輩の涙を見て、なんにもいいこと言えなかった……」
「もっちー……」
「先輩と星岡君が思いを伝えられない理由が、あんなに深刻なものだって思わなかった」
熱のにうかされているのか、本音だけがするすると馬鹿みたいに出てくる。
ほとんど独り言みたいな会話になっているのに、一之瀬君は黙って聞いてくれた。
「……私は、星岡君が好きだから、先輩のことが羨ましいし、二人が話してるところを見ると嫉妬心が芽生えるよ」
「うん、そりゃそうだよね……」
「私は普通の人間だから、あんなに可愛い先輩が何を謙遜しても嫌味にしか聞こえない時もあった。その度に、やっぱり悲劇のヒロインぶって二人を応援するなんて無理だって思った……」
「……もっちー、もういいよ」
「二人がどんな思いで会話していたのかなんて知らずに、嫉妬してた……。そんな自分が情けなくて、私は一体、誰に何を謝ればいいんだろうって……、ずっと、ずっとこの一週間苦しくてっ……」
「依ちゃん、もういいから、大丈夫」
……気づくと、ぐっと肩を抱き寄せられて、一之瀬君の胸の中にいた。
一之瀬君は、片方の手で軽く頭を固定して、落ち着かせるように私の名前をもう一度呼んだ。
私は、状況を理解することができなくて、ただただ胸の中で硬直していた。
一之瀬君、慰めようとしてくれているの……?
「頑張ったね、よしよし」
「え、ま、待って、やめて今私汗臭いから……」
「もっちーは、いい子だね、本当に」