君があの子に、好きと言えるその日まで。完
第四章
近づいた二人 翔太side
雛は俺と同い年の、活発で明るい女の子だった。
音楽系の道に進むため、日々ピアノ練習をしていて、雛の家からはよくピアノの演奏が聞こえていた。
親同士が学生時代からの付き合いということで、俺はしょっちゅう来栖家に遊びに行っていたけれど、ほとんどひとりでゲームをしていた。
中学生になると、同い年の女の子がいる家に遊びに行くこと自体が恥ずかしくなり、自然と遊ぶ回数は減った。
けれど、中学校は同じなので、顔はよく合わす。
学校でもためらいなく話しかける雛に、俺は正直嫌気がさしていた。
クラスメイトの男子に冷やかされるのが嫌だったから。
「翔太、待ってよ、なんで最近そんなに冷たいの?」
「お前クラスで話しかけんなよ、嫌なんだよ」
「なにがそんなに恥ずかしいの? 意味わかんない」
雛は、不満げに頬を膨らませて、俺の背中を思いっきり殴った。
それでも俺は雛を無視して、帰り道にこうしてばったり会わないように時間をずらして帰っていた。
雛がどんな思いで俺の背中を殴っていたかなんて知らずに。
中学生になると、急に女子は彼氏だの好きな人だの騒ぎ始めた。
俺はその変化が無性にかゆくて、なん度かそういった視線を感じたことはあったけれど、男子と一緒にいるほうが楽しくて目を逸らしていた。
そんな生活を繰り返していると、ある日翠と帰路でばったり会った時に、叱られた。
「あ、翔太、ちょっと待って」
「……翠、今日塾は?」
「今日は休みなの。それより話したいことあるんだけど」
その時俺は中一で、翠は中三の受験生だった。
みるみる大人っぽくなっていく翠に、俺はそのときすでに惚れかけていた。
だから余計雛の気持ちは邪魔で、気まずくて、目を逸らしたい感情だった。
……本当に最低な人間だと思う。
「ねぇ、雛と喧嘩でもしたの? 全然話してくれないって拗ねてるよ」
「……別に、喧嘩はしてないけど」
「姉として複雑なんだけど。あの子も空気読まずに話しかけるところあるから気持ち少しは分かるけど、もうちょっと優しくしてあげてよ」
「……はいはい、分かったよ」
俺のことをちっとも男としてみていない翠にも腹が立ったし、優しくするという基準もその時の俺にはピンとこなくて、受け流した。
そんなこと俺の知ったこっちゃない。