君があの子に、好きと言えるその日まで。完
意図の分からない返事に、ぽかんとした表情で問いかけると、彼はさっきと同じように真顔でやだと答えた。


「やめたくない、好きなふり」

「え、どういうこと……」

「もっちーのこと、本当に好きになっちゃダメ……?」


予想もしなかったセリフに、頭の中が真っ白になって、言葉を失った。

だけど一之瀬君は、真剣な表情で私のことを見つめている。


本当に好きになりたいって、それって、私のことが好きってこと……?

まさか、そんなこと、あるわけない。

そんな風に固まっているうちに、ぐっと頭を引き寄せられ、気づくと額にキスをされていた。


「え、一之瀬君……待って今本当に混乱して……」

「同情じゃないし、優しさでもない。……ひとりの女の子として、もっちーのことが好きだよ」

「ほんとに……?」


ぽかんとした顔のまま、空っぽのまま、私はキスされたおでこを押さえて質問した。

すると、一之瀬君はいつものポーカーフェイスな顔を崩して、苦しそうに眉を顰めた。


「ほんとだよ、俺がどんな気持ちでそばにいたと思ってんの。もっちーなら、分かるでしょ……」


好きな人が好きな人を見つめているのを、そばで見ることの切なさを、私は痛いほど知っている。

一之瀬君も、私と同じような痛みを抱えていたの……?


「……少しずつでいいから、俺のこと好きになって」


生ぬるい風が、再び私たちの間を駆け抜けた。

気づくと、オレンジ色の夕日がビルに隠れて、紺色の空と混ざり始めていた。


一之瀬君の言葉は、切なくて、真っ直ぐだった。



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