君があの子に、好きと言えるその日まで。完
突然の接点
星岡君の涙を見て、私は、これ以上踏み込めないなにかを感じた。
恋は、自分から行動しない限り、相手からなにかアクションを起こしてくれることなんて無くて、あれから何事もなく日々が過ぎた。
私も、星岡君にアタックしたいなんてそんなことは思わなかったし、皆が星岡君を魅力的に思うなにかを共有できた、そのくらいの気持ちだった。
あれは、一過性のドキドキだったのだと、そう思うことにした。
星岡君も、あの時庇った女子が私だったなんて、きっと覚えていないだろうし、私もその件で改めてお礼をいうこともしなかった。タイミングを逃してしまった。
高校一年生は、あっという間だった。
あっという間に通り過ぎて、私は、気付いたらこっちの生活にすっかり溶け込んでいた。
「体育祭のポスター、依が描いたの?」
高校二年の春、私達はクラス替えもなく、同じメンバーのまま進級した。
新鮮味のないまま教室だけ移動した四月後半のこと、三木ちゃんは体育祭のパンフレットを見て驚いたように問いかけてきた。
『繋、絆、結』という漢字一文字のテーマが散りばめられたポスターを、今年は私が担当することになった。
毎年美術部員全員でポスターを描き、選ばれた作品がポスター及びパンフレットの表紙になる、という流れなのだが、有難いことに今年度は私の作品が選ばれた。
近くのスタジアムを借りて行うので、体育祭の規模は大きい。そこに自分のポスターが沢山張られるのかと思うと、素直に嬉しく思う。
「すごいよ、うちの高校、美術部のレベルも相当高いもんね。毎年藝大合格者出してるし」
「活動内容が、想像よりずっと厳しくて本気で、最初は驚いたけどね」
先生の講評も厳しくて、本気で美大合格を狙った人たちが集まっている。
好きな絵を描くことなんてできなくて、それができるのは受験前に描く作品だけなのだとか。
今の三年生の美術部員は、部長も代替わりし(この高校では部長は二年生が務める)、受験勉強と課題をひたすらこなしている。
想像以上にピリついた空気の中で、私も絵を描くことと真剣に向き合っている。
「はい、無駄話はやめて。二週間後の体育祭の実行委員を二名決めないと今日は帰れないからな」
先生がパンと手を鳴らして、ざわついた教室の空気を止めた。