木村先生と和也君
「お前はガキだけど,先生が大人だからそんな馬鹿なことにはならないと信じてるけどな。お前も大人の人と付き合いたいなら,その辺しっかり考えとけ。母さんには俺から話をしとくから。」

父さんは台所で夕飯の準備をしている母さんをちらりと見て言った。

俺と先生の未来のために頼んだ,父さん。

「それにしても」

父さんは続けた。

「先生のこと,父さんの方が先に目を付けてたよな。なのにまさか和也が付き合うことになるとはなぁ」

・・・

そうなのだ。父さんは,先生と初めて会った日から「あの先生,なんかいいな。あ,これは母さんには言うなよ」と言っていた。

確かに俺は当初は好きという感情は抱いてなかった。

でもそれは俺が自分の気持ちに気づいてなかっただけで,俺だってずっと先生のこと好きだった。

だから相手が誰であっても,どんなに小さいことでも引くわけにはいかない。

「俺の方が先だったよ」

「ほんとか?」

「ほんとだよ。どちらにしても先生は俺の彼女だから。父さんは母さんと仲良くやって」

いい加減にしてくれとため息混じりに俺が言うと,父さんは胸を張って答えた。

「それは心配ない」

本音を言えば心配はしていない。

父さんは母さんにベタ惚れだし,母さんも父さんのことを猫可愛がりしている。

高校生の息子の俺より父さんの方が甘やかされてるんじゃないかと思うほどだ。

「和也は美人の嫁さんをもらって,俺は母さんとずっと仲良くやって,俺の老後は希望に溢れてるなー。俺は幸せだ!」

父さんは嬉しそうに言った。

やっぱり俺と先生のことを反対している風には見えない。

むしろ俺を介して先生と仲良くしようとしてるんじゃないかと少し不安に思う。

先生はあくまで息子の彼女,その辺ちゃんとわかってもらわなきゃな。
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