全ての記憶を《写真》に込めて



――――――――――――――――――

『よーい、はじめっ!』
合図がかかった瞬間走り出す。
本当は本気でやる予定なんてなかったけど、応援されたからには負ける訳にはいかない。
そして、本気を出すからには勝たなければならない。

お題箱から紙を引く。


「はぁ………、嘘でしょ」


やる気がなくなっていくのを感じる。だけど、途中で投げ出すのは嫌いなんだよね。
「はぁ」
二度目のため息を零しながら走って戻るのは観覧席側。

まさかこんな少女漫画みたいなことあるなんてね。
いや、別に少女漫画じゃないか。
お題がお題だし。


「あ、晴くん?」
「さっさと走るよぉ」
「えっ、えぇっ!?」


『おぉっと、和久井くんが御国さんを連れて走っている!お題は何なのか!』

実況の人が盛り上げている中、俺は驚いているそいつを掴んで走る。
俺の場合はすぐにお題の物が見つかったからいいけど、ほかの人はまだ探してる。
よって、俺達が一番。





「はぁっ、はぁっ、は、晴くん…急にどうしたの…?」
「あんたがお題だったんだよねぇ」
「えっ、私!?」





『それでは、全員ゴールしました!最下位の人からお題を言ってもらいます!』

「俺からかよ!」
クラスの高橋が声を上げる。
高橋が持っているもの、それは……。
「俺のお題はニワトリ!」
会場が笑いに包まれる。
四位三位も、ブリキのおもちゃや、穴の空いた体操服などふざけたお題ばかり。

『それでは一位の和久井くん!』

俺のお題は…、

「笑顔が素敵な異性」






観覧席に戻るや否や、
「和久井くん!彩月はあげないからね!」
と、叫ばれる。
「は、晴くん、私なんかでよかったの?茉莉ちゃんの方が笑顔素敵だよ」
「うるさいなぁ、俺が選んだんだから文句言わないでよねぇ」
あと、文句はお題作ったやつに言ってよ、と横でキャンキャン言ってる奴に伝える。
「晴が彩月ちゃん連れてくから、もしかしてお題が好きな人、とかなのかと思ったんだけどな〜」
そんなわけないでしょ、と言うとニヤニヤしながら翔が口を開く。

「でも、晴といる彩月ちゃんは楽しそうだけどな〜」


「別にそんなの俺には関係ないしねぇ」
そう、俺には関係ない。
でも、俺もあいつといるのは楽しいと思う。
多分だけどね。


「あ、次の競技始まるよ!」

「次は翔でしょ、さっさと行きなよ」
「はいはい、女の子のために頑張ろっかな〜」
「あんたの女好きいい加減にしたらぁ?」
「無理ぃ」
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