全ての記憶を《写真》に込めて
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嘉月さんはからかうと面白い。
あいつとはまた違う反応だ。
「そういえば、彩月」
「ん?」
「 」
すると、嘉月さんはとんでもない爆弾発言をしてしまったようで。
_______________バチンッ。
「お兄ちゃんのバカッ!言わないでよ!」
放心する嘉月さんと、しまった、とでも言いたそうに自身の手のひらを見つめるそいつ。
もちろん、俺達も、頭が追いつかない。
「え、さ、彩月……?お兄さんが言ってることって……」
「あ、えっと…」
あの時保健室で話した時のように、目が泳ぐそいつ。
「あんたが、秘密にしてたことって……」
そして、半ば諦めたかのように目を閉じた。
「内緒にしてて、ごめんね」
「お兄ちゃんの、言ってることに間違いはないよ」
「ただ、ひとつだけ訂正させてね」
嘉月さんが言った言葉。
『余命は伸びたか?』
「私の余命はあと2年」
「でも、これは、死ぬんじゃなくて、記憶が無くなっていって、起きていられる時間が短くなるだけ、だから」
「よくわからない病気だよね」
最後にそう呟くそいつは自虐気味に笑った。
「…お兄ちゃん、叩いてごめんね」
そう言って、放心状態の嘉月さんに謝る。
「彩月、まだ言ってなかったんだな…… ごめん……」
嘉月さんも本当に申し訳なさそうに目を伏せる。
「ちょっと、頭冷やしてくるね」
そう言って、そいつは外へ出て言った。
それから、嘉月さんが重々しく口を開く。
「彩月が、写真を撮る理由、聞いてなかったんだな」
「……彩月が目覚めなくなるかもしれないって…」
「だから、だから、俺は家を空けて海外に行って、いろんな病院に通って来たんだ」
だから、家を空けてたのか。
すると、嘉月さんは悲しそうに、悔しそうに下唇を噛み締めた。
「でも、誰もそんな病気知らないって……っ!だから、治せねぇなんて言うんだ」
それから、冷静になったのか苦笑しながら、こんな話してごめんな、と謝る。
あいつの家族はみんな、自分より人のこと優先なのか。
「…彩月が、写真撮ってたのって、自分の記憶がなくなっても、覚えておくためだったんだ………」
「そうだ」
だから、あの時…。
『晴くんとの思い出だよ』
「翔くんたちから聞いたけど、晴くん、だよな」
「はい」
突然なんだろう。
真剣な顔して。
「彩月が人の写真撮るのは家族以外滅多になかったんだ」
そして、微笑む。
あいつそっくりの微笑み方。
綺麗な微笑み。だけど、どこか儚げな。
「彩月が君に執着するのは、彩月にとってきっと大切な存在だからだよ」
「俺はさっきあんこと言ってたけどさ、君はすごく綺麗だもんな」
綺麗、か。
あいつにも言われた。
「彩月はきっと、君になら、君たちにならすべて話すよ」
だから、支えてやってくれ。
嘉月さんが頭を下げる。
年下の俺たちに頭を下げている。
「馬鹿だよねぇ」
「そんなこと言われなくても、世話してやるっての」
俺らしくないセリフかもしれない。
だけど、あの時見た泣きながら眠る顔を見て、ほっとけなくなったからねぇ。
「そうだよ!彩月は私の親友なんだからね!」
「彩月ちゃんほど可愛い子をほっておく分けないでしょ〜」
「ありがとう、本当にありがとう」
泣きそうな顔で、嬉しそうに目を細める嘉月さん。
「あいつの、………彩月の顔をまたつねってあげないと」
俺たちに大事なことを隠してたから、ねぇ。