全ての記憶を《写真》に込めて
「私が病気になったのは、4歳くらいの頃だったらしい」
その頃はまだ、両親とお兄ちゃんみんなで暮らしていた。
「きっかけは、交通事故」
歩道を家族と歩いていたら前方不注意の車が突っ込んできた。
一番被害を受けたのは、私だった。
頭から血を流して倒れていたらしい。
私は全然記憶が無いけど。
「病院へ連れていかれて、検査してもらったよ」
「そしたら、記憶する器官に損傷があったらしいの」
だけど、それ以外は普通で。
「保健室の貴美先生はその頃の看護師さんでお世話になったから全部知ってるの」
「それ以来、急にものを忘れる危険があるって言われて、お父さんと写真を撮り始めたの」
ここは、晴くんが言っていたのと同じ。
忘れた時に、思い出せるかもしれないから。
「でも、事故から何日かたったあと急に倒れたんだよ」
「すぐ目が覚めたからよかったけど、それから何回か倒れることがあったの」
「気を失っている時間もだんだん長くなって言ったんだ」
そこで、大きな病院に連れていかれた。
『もしかしたら、そのまま目覚めなくなる可能性があります』
『脳への損傷も大きいので、記憶も二十歳までしか覚えていられないでしょう』
『もって、二十歳ですね』
まだ幼かった私には難しかったけど、当時中学生だったお兄ちゃんでさえ、意味がわかったようで泣いていた。
「2時間45分はまだ短いほうなんだよ」
「長い時だと、半日倒れたままの時があったから」
「お兄ちゃんは、中学を卒業したあと、家を出ていった 私の病気を何とかするために」
成績優秀だったお兄ちゃんは、いい高校に通えたはずなのに。
それを全てけって旅に出てしまった。
それ以来、お兄ちゃんとは会っていない。
「ここからは、きっと、お兄ちゃんも知らない話だよ」
「小学生の頃は、まだ倒れることは無かったけど、中学生の頃は1週間に3回くらいの頻度で倒れるようになったの」
私が中学に上がる頃には、両親も仕事で海外に行った。
本当は行きたくなかったみたいだけど、大きな会社からのお願いだったらしい。
優美さんに私を頼んで仕事へ行った。
「倒れる頻度が上がると私は保健室に行くことが多くなった」
それが、周りの人たちの気に触ったようで。
気づけば、クラスメイトはもちろん、倒れることを知っている学年のみんなが私を腫れ物扱いするようになった。
『気を引きたいんだけなんでしょ』
『サボりたいだけじゃないの』
『可愛そうとか思ってほしいの』
「だから、高校は初めから保健室にいたの」
入学当初から、誰にも合わなければ相手に不快な思いをさせることはないから。
「高校に入学してすぐにまた倒れたよ」
「そして、病院へ優美さんと行ったの」
待ち受けていたのは最悪の言葉だった。
『二十歳まで持ちそうにありません』
『多く見積もって高校卒業後の1年ですね』
「だから、私は誰かに会う気なんてさらさらなくなった」
「でも、晴くんに会ったんだよ」
あの時、出会ってしまった。
「笑った顔が取りたくて、教室まで行ったら茉莉ちゃんに会って」
「茉莉ちゃんと一緒に晴くんを撮りに行けば翔くんに会って」
「参加したことなかった体育祭にも参加出来て」
「クラスのみんなも優しくて」
今まで背景しか取らなかったのも、どうせ…、なんて気持ちがあったから。
諦めがあったから。
「でも、晴くんと会ってから忘れたくないことが多くなったんだよ」
全部覚えておきたい。
家族のことも、学校のことも、友達のことも。
「そんな私って、欲張りかなぁ」
涙が止まらない。
今まで思っていたことを吐き出した。
堰き止めていたものがなくなり、溢れ続ける涙。
_______________フワッ。
「え、」
「ほら、泣いていいからさぁ 全然欲張りじゃないよ、そんなの」
「は、晴くん……濡れちゃうよ」
すべてを包むように抱きしめられる。
頭を撫でられる。
「あんたは、彩月は今まで頑張ってきたんでしょ」
「だったらそんなの欲張りじゃない」
「我慢しなくいいからさぁ、泣いちゃいなよ」
優しすぎる。
戸惑っている私に、茉莉ちゃん達が。
「彩月は我慢しなくていいんだよっ!うぅっ、私が泣いてどうするんだろうね…っ」
と、涙を流しながら、見守ってくれる茉莉ちゃん。
「彩月ちゃんはもっと甘えることを知らないとね〜 泣いちゃえ泣いちゃえ」
と、おどけた様に元気づけてくれる翔くん。
「本当は、俺が晴くんの場所にいるべきなんだけどな〜 まぁ、今回はしょうがないよな」
と、苦笑しながら呟くお兄ちゃん。
「ほら、全部受け止めてあげるからさ」
_______________我慢しなくていいんだからねぇ。
ありがとう、ありがとう晴くん。
茉莉ちゃん、翔くん、晴くんと友達になれてよかった。
そして、私はまるで赤子のように泣いた。
晴くんに抱きしめられながら、気がすむまで泣いた。
その頃はまだ、両親とお兄ちゃんみんなで暮らしていた。
「きっかけは、交通事故」
歩道を家族と歩いていたら前方不注意の車が突っ込んできた。
一番被害を受けたのは、私だった。
頭から血を流して倒れていたらしい。
私は全然記憶が無いけど。
「病院へ連れていかれて、検査してもらったよ」
「そしたら、記憶する器官に損傷があったらしいの」
だけど、それ以外は普通で。
「保健室の貴美先生はその頃の看護師さんでお世話になったから全部知ってるの」
「それ以来、急にものを忘れる危険があるって言われて、お父さんと写真を撮り始めたの」
ここは、晴くんが言っていたのと同じ。
忘れた時に、思い出せるかもしれないから。
「でも、事故から何日かたったあと急に倒れたんだよ」
「すぐ目が覚めたからよかったけど、それから何回か倒れることがあったの」
「気を失っている時間もだんだん長くなって言ったんだ」
そこで、大きな病院に連れていかれた。
『もしかしたら、そのまま目覚めなくなる可能性があります』
『脳への損傷も大きいので、記憶も二十歳までしか覚えていられないでしょう』
『もって、二十歳ですね』
まだ幼かった私には難しかったけど、当時中学生だったお兄ちゃんでさえ、意味がわかったようで泣いていた。
「2時間45分はまだ短いほうなんだよ」
「長い時だと、半日倒れたままの時があったから」
「お兄ちゃんは、中学を卒業したあと、家を出ていった 私の病気を何とかするために」
成績優秀だったお兄ちゃんは、いい高校に通えたはずなのに。
それを全てけって旅に出てしまった。
それ以来、お兄ちゃんとは会っていない。
「ここからは、きっと、お兄ちゃんも知らない話だよ」
「小学生の頃は、まだ倒れることは無かったけど、中学生の頃は1週間に3回くらいの頻度で倒れるようになったの」
私が中学に上がる頃には、両親も仕事で海外に行った。
本当は行きたくなかったみたいだけど、大きな会社からのお願いだったらしい。
優美さんに私を頼んで仕事へ行った。
「倒れる頻度が上がると私は保健室に行くことが多くなった」
それが、周りの人たちの気に触ったようで。
気づけば、クラスメイトはもちろん、倒れることを知っている学年のみんなが私を腫れ物扱いするようになった。
『気を引きたいんだけなんでしょ』
『サボりたいだけじゃないの』
『可愛そうとか思ってほしいの』
「だから、高校は初めから保健室にいたの」
入学当初から、誰にも合わなければ相手に不快な思いをさせることはないから。
「高校に入学してすぐにまた倒れたよ」
「そして、病院へ優美さんと行ったの」
待ち受けていたのは最悪の言葉だった。
『二十歳まで持ちそうにありません』
『多く見積もって高校卒業後の1年ですね』
「だから、私は誰かに会う気なんてさらさらなくなった」
「でも、晴くんに会ったんだよ」
あの時、出会ってしまった。
「笑った顔が取りたくて、教室まで行ったら茉莉ちゃんに会って」
「茉莉ちゃんと一緒に晴くんを撮りに行けば翔くんに会って」
「参加したことなかった体育祭にも参加出来て」
「クラスのみんなも優しくて」
今まで背景しか取らなかったのも、どうせ…、なんて気持ちがあったから。
諦めがあったから。
「でも、晴くんと会ってから忘れたくないことが多くなったんだよ」
全部覚えておきたい。
家族のことも、学校のことも、友達のことも。
「そんな私って、欲張りかなぁ」
涙が止まらない。
今まで思っていたことを吐き出した。
堰き止めていたものがなくなり、溢れ続ける涙。
_______________フワッ。
「え、」
「ほら、泣いていいからさぁ 全然欲張りじゃないよ、そんなの」
「は、晴くん……濡れちゃうよ」
すべてを包むように抱きしめられる。
頭を撫でられる。
「あんたは、彩月は今まで頑張ってきたんでしょ」
「だったらそんなの欲張りじゃない」
「我慢しなくいいからさぁ、泣いちゃいなよ」
優しすぎる。
戸惑っている私に、茉莉ちゃん達が。
「彩月は我慢しなくていいんだよっ!うぅっ、私が泣いてどうするんだろうね…っ」
と、涙を流しながら、見守ってくれる茉莉ちゃん。
「彩月ちゃんはもっと甘えることを知らないとね〜 泣いちゃえ泣いちゃえ」
と、おどけた様に元気づけてくれる翔くん。
「本当は、俺が晴くんの場所にいるべきなんだけどな〜 まぁ、今回はしょうがないよな」
と、苦笑しながら呟くお兄ちゃん。
「ほら、全部受け止めてあげるからさ」
_______________我慢しなくていいんだからねぇ。
ありがとう、ありがとう晴くん。
茉莉ちゃん、翔くん、晴くんと友達になれてよかった。
そして、私はまるで赤子のように泣いた。
晴くんに抱きしめられながら、気がすむまで泣いた。