全ての記憶を《写真》に込めて
「隠さなくてもいいのにさぁ」
面白そうにくくっ、と声を抑えるかのように笑う声が聞こえた。
指の間から覗いてみる。

「ぁ……」


すごく綺麗だった。
私が好きになったのもこの笑顔だったのかな。

「晴くんの笑った顔、素敵です」
「えっ、」
「あの!モデルやってるところみたいです!晴くんの色々な顔、見てみたいです!」
欲張りだろうか。
もし、モデルをやって晴くんが傷ついてしまったら?
モデルの頃に何があったのかは全然聞いてない。
でも、晴くんは………、

「彩月のお願いなら聞いてあげるよ」

なんて、言うんだ。

「ありがと、」
「ただ一つ条件ね」
「え、」
「彩月も一緒に来てねぇ」
い、一緒に!?
「と、撮るところに、ですか?」
「うん」
「えっと、お邪魔してもいいなら…」
「それは大丈夫」
じゃあ、約束ねぇ、と右手を出される。
あ、握手……かな?
私も手を差し出そうとした。

_______________グイッ。

「きゃっ!」
「はい、約束」
「ははは晴くん!?」
ぎゅーっと、強く抱きしめられる。
「なぁに」
「〜〜っ!」
ち、近いです、と言おうとしたが記憶がなくなる前は付き合っていてこれが普通だったのかもしれない。

落ち着いて、私。

そして、気が済んだのかバイバイと、病室を出ていく晴くんを眺める私はただ心臓の音を抑えることで精一杯だった。
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