愛されたいのはお互い様で…。

「では、私は戻りますから、朝ご飯、ちゃんと食べてから出勤してくださいね」

…。

「…紫さん?…また、…二度寝、三度寝になりますよ?駄目ですよ?起きてください」

…。

「解りましたよ…これならどうです?…」

顔を押さえて長く口づけた。

「フ…わざと目を開けませんでしたね。いけない子ですね…。起きてくれないから一緒に朝ご飯食べられなかったでしょ?」

「……おはようございます」

ギュッと抱き着かれた。

「あ…どうやら今朝は、甘えたい日のようですね」

背中を撫でた。

「…はい」

「はぁ…これは…攻守交代ですね。もう少し居ましょう」

「はい」

抱きしめたまま少し横になる事にした。…こんな風に甘えてくれるなんて嬉しいじゃないですか。


朝、昨夜の伊住さんの話を思い出していた。
一日一日を大事に思う事。ずっと一緒に居ても別れはどんな形であれいつかは訪れるモノ。それは思いがけず早いかも知れないし、遅くても充分だと感じられるとは限らない…。
もしかしてって、思ってしまった。伊住さんの話し方は…何だか、突然消えてなくなりそうで恐かった。それは、あってはならない事だけど、例えば病気を抱えているとか…何かあるのではないかと思ってしまったからだ。
こんな予感は当たって欲しくない…。考え過ぎだろうけど。

「…さあ、もう起きて支度した方がいい…」

「はい」



「では、行ってきますね」

「はい、行ってらっしゃい」

ギュッと抱きしめた。こうして送り出す…朝は何だか寂しい。

「…伊住さん、私、伊住さんの部屋に行きます」

「紫さん…」

「ずっと一緒に居たいです。伊住さんと居る時間を大切にしたいと思います。週末、行きます、いいですか?」

「はい…あぁ、嬉しいですね。…気をつけて行きますからね。嬉しくてコケてしまわないようにしないと。
足元に気をつけて行かなくてはいけませんね」

…伊住さん。クス…本当に、可愛い人だ。

「行ってらっしゃい」

抱き着き直した。

「はい…。紫さんも行ってらっしゃい。…では」

チュッと頬にキスをされた。

「んー。キリがないので行きますね」

「フフ…はい、行ってらっしゃい、気をつけて」
< 128 / 151 >

この作品をシェア

pagetop