愛されたいのはお互い様で…。
会社の休憩時間を少し前倒しして産科に行った。
前日から、ついて行きますと言う伊住さんには、結果が解ったら直ぐ連絡をすると約束して家に居てもらう事にした。
産科も初めて、診察される椅子に、寝かされたようにされるのも。全部が初めての事ばかりで…。
ドキドキして…こんな事なら、一緒に来てもらえば良かったと思った。
検査が終わった。
待合室で呼ばれるのを待っていた。…結果が解る。
「真瀬紫さ〜ん」
「…はい」
「お待たせしました、どうぞ、お入りください」
にこやかに呼ばれた。
「真瀬紫さん。おめでとうございます、妊娠6週目ですね」
「あ、本当に…」
はぁ…伊住さん…。やっぱり強がらずに、一緒に来て貰ってたら良かった。あぁ、早く知らせてあげたい。きっと今まで見たこともない様子で喜んでくれることだろう。
「本当ですよ、まだほんの初期ですね。まだ不安定な時です。あまり激しい…」
……あっ。
「あの!」
「は、はい?」
先生の両腕を掴んでいた。あの事、心配になった。
「あの、私…知らなくて、…あの、普通にセックスしてしまって。しても大丈夫だったのでしょうか」
「あ、は、い。普通…ですか…。大丈夫ですよ。今現在、異状はありませんでしたから。
大丈夫です、妊娠に気がつかなくてしてしまう事はよくある事なんです。
その事で流産する事はまずありません。そんなに心配されなくても大丈夫ですよ。これから気をつけて頂いたら」
「気をつけるって何ですか?あの、何度かしてしまいました。それは普通よりソフトにです。ソフトに沢山しました。沢山でも大丈夫だったでしょうか」
「あ、…それは、…普通よりソフト…沢山されたのですか。…んん。大丈夫ですよ。異状は無いと言いましたよね。落ち着いて聞いてくださいね。
少しでも異状が現れた時ですとかですね、それは出血があったとか…そういった事があれば、してはいけないという事です」
「ではする事は大丈夫なんですか?」
「…あ、…真瀬さんは、パートナーの方にとても愛されているようですね。
…大丈夫ですよ。それ自体に問題はありません」
腕を掴んでいたはずが手を握られていた。
「ただ、これから先ですね、妊娠時期によっては子宮が…その…収縮してしまいますから、乳房への刺激もですね、ソフトな方が…」
「先生…そのくらいで」
「あ、あー、まあ、そういった事も含め、妊娠に注意すべき事がこちらに書かれていますので、目を通して、熟知されてください。
…大丈夫ですよ、されても」
「あ、……はい。…すみません」
はぁ…恥ずかしい。
鏑木礼なんて名前…てっきり女医さんだと思ってた。
知らずに初めて来た産科の先生が若い男性だった上に、イケメンだった事は、診察上、色々凄く困ったが、更にその先生を掴まえて、赤裸々な告白と質問責めをしてしまった…。
冷静に、また来る事を考えたらとても恥ずかしい…。
真瀬さんは大丈夫でしょうが、なるべく、おおらかな、ゆったりした気持ちで過ごしてくださいねと言われた。…ハハハ。
お大事に、と言われて送り出された。
産科を出て早速メールした。
【妊娠してました!】
はぁ…喜んでくれてるかな。
…まだまだ凄く小さいんだね…。無意識にお腹に手がいった。ここに、間違いなく伊住さんの赤ちゃんが。
ブー、…あ。伊住さんだ。