愛されたいのはお互い様で…。
…務。…どこ?…務。お願い、傍に居て。どこ?
「…務!」
「……大丈夫ですよ。さあ、こちらにお掛けになって、レモンティー、ミルクティー、ローズヒップ、…カモミール、お好きなお茶を召し上がりませんか?」
あ、何…え?黒いエプロン…。
「務……務」
…どこに居るの?…務。
「………一緒にアップルパイなどいかがですか?特別に、バニラアイスで作った焼きプリンもございますよ?
しかし、それは…、残念ながらあまり美味しく出来ておりません。私が作ったモノですから…お勧めできませんね…」
…どうして、この男性はどんどん話しかけて来るんだろ…。アップルパイ…、プリン?…。
テーブルの上に、小さくブーケのように作られた薔薇が飾られていた。
…ワインレッドの薔薇。カールした細いリボンが結ばれていた。
…………あ、…あ。…頭が。
男性は優しく切なく笑ってその薔薇を手にした。
「これは…忘れ物ですよ。…取りに来てくれたのですか?これは…要らないと言った欲しいモノの一つ…③の、秘密の贈り物、でした。…どうぞ」
薔薇…秘密の、贈り物…。花、束…。!?
「あ、あ、あ……Ginzirou…ここは、…あ…伊住、さ、ん…あぁ…伊住さん、私……赤ちゃん…あ、…赤ちゃんが」
何もかも一気に甦って来た。伊住さんとの事が溢れ出して来る。
「あ、…あ…。……赤ちゃんは?どうなって…え?」
「紫さん!」
痛いくらい抱きしめられた。
「私…メールを…伊住さんに…自転車がぶつかって倒れて………赤ちゃんは?大丈夫ですよね。赤ちゃん」
無意識にお腹に手を当てた。私の頭の横で頭を付けた伊住さんが首を振っているのが解った。もっとギュッと抱きしめられた。
「え、ぁ…あぁ…赤ちゃん………伊住さん、赤ちゃん、…駄目なの?…もう、いなくなったの?」
「…紫…」
「ごめんなさい、ごめんなさい…私、……ごめんなさい…赤ちゃん…ごめんなさい」
涙がどんどん湧いてきてぽろぽろ零れ落ちた。膝が崩れそうになったのを支えるように抱きしめられた。
「…はぁ…紫さん。大丈夫。大丈夫です。…息をして?ゆっくり息をして…大丈夫ですよ」
「伊、住さ、ん…私…」
涙が止まらない。
「…大丈夫ですよ。私と貴女の赤ちゃんなら、きっとまた生まれ変わって会いに来てくれます。…タイミングを見て、きっと会いに来てくれます。大丈夫ですよ、大丈夫…。
…まだかな、まだかなって…。私達のところに来るのを待ってくれていますよ…。
やっと…私を…思い出してくれましたね。…お帰りなさい紫さん…」
…伊住さん。
「ごめんなさい…伊住さん…」
「紫さん…謝らないでください。紫さんは悪くないのですから」
背中を優しく撫でられていた。流れ落ちる涙が止まらない。震えが止まらない。
「…ごめんなさい、…伊住さんの事、忘れてしまって、…ごめんなさい…」
しゃくり上げて泣く、零れる涙を両手で拭ってくれた。