愛されたいのはお互い様で…。

顔を押さえて覗き込むように見つめられた。

「…そうですよ?酷いじゃないですか…罰として、直ぐ、ここに帰って来てくださいね。
あぁ、もう、あの、外から心配そうに見ている男のところになんて、帰しませんからね」

「あ…務…務」

顔を上げた私に務は手をちょっと上げた。
じゃあなって、言ってる…。

あ…務。…ごめんね、有り難う。ごめんね、…有り難う。

「ちょっとでも、好きになってはいけませんよ?…いい男なんですから。
…びっくりしましたよ、初めて会った時、いい男過ぎて。…内面も前より更にいい男になりましたね。ずっと見守って支えてくれました。
今回は辛いお願いをしてしまいましたから。とても苦しかったと思います…無邪気に迫る貴女のお陰で。
紫さんに罪はありませんよ?記憶がなかったのですからね」

「私…そうですね。何だか不思議な時間でした。
好きなはずの務と居るのに、何だかどこか寄り掛かり切れなくて…ここら辺が何か足りなくて」

胸の辺りを押さえた。

「それは、私、でしょうか…」

「…はい。そうです。今はドキドキしています。
短かったかも知れないけど、知らないところに旅に行ってたような感じです。…昔から解っている事と、知らないと可笑しい抜け落ちた部分と、…これ以上長くなったら、無理だったかも知れないです。何もかも…現実逃避していたかも知れない…。
花束は伊住さんだったのですよね?」

「…さあ、どうでしょう。
…はぁ、すべてが欲しいとか、先に紫さんが言うから…。
私はそこは、敢えて含みの部分にしていたのですよ…言葉にしてしまっては粋では無いでしょ?」

…そのお陰で私は悩んだんですけどね。

「少し、休みますか?どうされていましたか?」

「普通にしてました。記憶が無い以外は元気でしたから」

「そうですか…はぁ、私はご飯が喉を通らず、夜も眠れず、気がきではありませんでした」

「あ、…先生に聞いたら…、妊娠していてもしていいって教えてくれました、大丈夫だって」

「あ…検査に行って、そんな事を聞いていたのですか?」

「はい…、だって…あの時は…心配だったからです…」

あぁ…赤ちゃんの事は思い出さないでいる事は、これからだって無理なんです。…紫さん。大丈夫ですからね、…大丈夫。
静かに抱き寄せた。

「…解ってますよ、…大事な事ですからね。…実は紫さんが貰って帰っていた冊子、バッグの中から…診察券と一緒に取り出していましたから。私は既に勉強済みなんですよ?どうしたらいいかは熟知しました。…任せてください」

…伊住さん。胸…温かい…。

「あ、私、伊住さんに聞きたい事が、…ずっと気になっていて」

「はい、何でしょう」

顔を覗き込まれた。近い。

「あ。伊住さんは、健康ですよね?私に病気を隠しているとか、無いですよね?」

「どうしました?」
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