愛されたいのはお互い様で…。
「中敷きもただ敷けばいいと思いがちですが、足に合っていなければ、違和感や苦痛の元にもなります。へたって来たら交換も必要になります。
足の形も日々変化します。足を大事にしようと思ったらメンテナンスは必須ですね」
流石、靴屋さんは靴屋さんだ。ご尤もです。
「肌が疲れて、パックして…、何とかしようとするのはメンテナンスになってるんですかね?」
馬鹿な聞き方をした。靴も、クリームを塗ったりと、手入れが必要ですよねと言いたかったのに。
「ん?…お顔のパックですか?んー、しないよりはした方が、本人が納得って感じの行為じゃないでしょうか」
確かに。…求めるモノ、結果、…付け焼き刃には限度がある。それでもその日だけ応急処置的にしてしまう。
「靴も革のお手入れをして可愛がってあげると、長く、手放せない程、愛着も湧く物ですよ?元々が気に入って手に入れたものでしょうから」
「そうですね。これからはずっと大事にします」
そうです。その事が言いたかったのです…。
「…はい。いいですよ…」
「有難うございました」
両手を前から乗せるようにして伊住さんの手を握っていた。その手を離された。
「棚に足型が並んでいるでしょ?紫さんの採寸した足もあんな風に作ります。そして、それに合うように靴を製作します」
「うわ。楽しみです」
「二つ揃ってから取りにこられますか?それとも一足ずつ?黒から?ワインレッドから?どちらから作りましょうか」
「あー、どうしましょう。んー」
「先にどっちを見てみたいですか?」
「ワインレッドの方かな」
「では決まりですね。ワインレッドの方が出来たらご連絡します。それから黒を作りましょうね」
「はい、お願いします」
「あっちの部屋に戻りましょう。顧客カードにご連絡先を記入して頂けますか?」
「はい」
漠然と訪ねていた者から、これでお客さんになったって事かな。