愛されたいのはお互い様で…。
・手強いミチノリ
「忘れ物はありませんか?」
「はい、大丈夫です」
迂闊と言えば迂闊だった。仕事終わりに来たとはいえ、今日はいつもよりも遅くなってからだった。しかも採寸するという作業まで進めた、話をした事で時間はかなり経っていた。
それでは、と言うより先に、遅くなりましたね、危ないのでお一人では帰せません、送ります、と言い切られてしまった。
断る事は出来なかった。どんなに丁重にお断りしたとしても、この言われ方では無駄だと解っていたからだ。
そして、今、店の片付けを簡単に済ませ、エプロンを外した伊住さんと外に出るところだ。
店の照明を消す。外の明かりは点いていた。
「さあ、帰りましょうか」
「はい」
目の前に見えているのは通って来た細い路地で、真っ暗。路地の先には大通りだと解る白い光の景色が両側の建物の壁に遮られるように細く縦長に見えていた。
伊住さんと路地に向かって進む。すると、後ろで明かりがふっと消えた。
「あっ」
思わず声が出た。
「ん?何か、ありましたか?踏みました?」
「いえ…あの」
「あぁ、ほとんど真っ暗になりましたね。目が慣れていないと足元が危ないですから、念の為手を繋ぎましょう」
怖くて声を上げた訳ではない。手は躊躇う間もなく、すんなりと取られて繋がれた。消えた明かりに気を取られていたからだ。
「…あの」
「はい?」
「外の明かり、勝手に点いたり消えたりするんですね。来た時、暗いって思ってると点いて、…それが不思議で」
「え?あぁ、外の明かりですか?」
「はい」
「そうですね」
……ぇえ?…それだけ?てっきり、どんな状況で点くとか、話してくれるものだと思っていた。 手は繋がれているのに、芸人さんのように思わずコケそうだった…。
「ん?」
「あ…いえ…便利に点いたり消えたりするようになっているのですね」
「そうですね」
…まただ…ま、いいか。感知して作動するようになってるのは間違いないだろうから。セキュリティー上、誰にでも詳しく話さない方がいいだろうと、これ以上話は膨らまさないのだと、思う事にしておこう。
「大通りからご自宅までは歩ける距離ですか?」
「…え?はい。職場に近いところをと思って借りているので、歩いても割とあっという間に着く距離です」
「そうですか、それは残念ですね」
「え?」
「ん?」
「…いえ」
残念て…。