愛されたいのはお互い様で…。
「…いえ、何でもないです」
含みがあるというか…聞き流してしまわなければ意味深な言葉だ…。こういった事を聞き返して、明確な答えは求めない方がいい。…わざわざ自分から惑わされてしまうモノを作る必要は無いのだから。
…はぁ、…大人な会話はすすんでしてくるんだな。…。
「ここで…大丈夫です。わざわざ有り難うございました」
タイル張りの建物の前で足を止めた。
「では、ここで」
「はい。すみません、こんな…。ただの一、客なのに、こんな事まで。あの、こんなところでなんなんですが、注文したという事で、先に少しでも、お支払いとかしておいた方がいいのではないのですか?
私からしたら、出来た物を代金を払わないで持ち帰るなんて事は出来ませんからしませんが、代金が支払われるかどうか解らない人の物を…伊住さんに作って貰えないって事はありますよね?」
「…そうですね、はい。既製品ではありませんので。作って引き取りに来て頂けなければ…そのままという事になってしまいます。だから、お引き受けする時は、初めての人からは頂くようにしてるんですよ」
あ、…、やっぱりそうだ。伊住さん…私の時も、初めにそう言ってくれていたら良かったのに。
私が察しが悪いのかな。いくらくらい渡しておいたらいいのだろう。全体の何パーセントとかみたいな、こういった時の決まりがあるのだろうか。
「あの、どのくらい…」
代金は、1、5足分とは言ってくれていたけど、まだ金額は聞いてない。今、この場で支払うとすると、お財布の中にいくらか纏まったお金はあったかな。
「…では。…少し、お気持ちだけ頂きましょうか」
「はい」
良かった…あ、…お財布。
向き合っていた。繋いでいた手を離した。バッグを持ち直して広げ、財布を探った。
「紫さん…」
「は、い。…少々、お待ちくださいね、…今、…お支払いを…。気持ちだけって、具体的に幾らくらいなんでしょう」
「はい」
あ、れ、?まさか、お店に忘れて来たって事は…あれ?
ハンカチ、ティッシュ…ソーイングセット、薬のポーチ、化粧ポーチでしょ……ぇえ?