愛されたいのはお互い様で…。

「…紫」

抱きしめていた腕が、前の合わせのボタンを外し始めた。いきなりだ。スーツの上着を脱がしながら、廊下に倒された。

「ぁ、務?な、に…こんなところで…」

「待てない…」

…務、どうしたの?ちょっと…変じゃない?

ブラウスの前を開けさせながら、立て膝になっていた左脛に手が触れた。スカートを少しめくらせながら手が這った。

「…紫……足、…生足…」

「あ、今日、採寸したから、それで」

務の動きが止まった。…何?何も言わず抱き起こされた。

「計る前に脱いだの、ストッキング。帰りは、また穿くのも面倒だったから、そのままだったの。帰るだけだし…あ、キャ」

座った姿勢の私は抱き上げられた。

「務?ねえ、務?」


ずんずんとベッドに運ばれ下ろされた。

「務?…」

何か言って。

「はぁ…何でもない説明が妙に聞こえる。一緒に居て見てないからだ。…店で脱いだのか…どんな風に…」

務がネクタイを緩めスーツを脱いでいる。

「…うん。ショップにあるような、試着室みたいな部屋があってね、そこでよ?ちゃんとそういう場所もあるお店だから、大丈夫でしょ?」

脱ぎ終わった務は、私に跨がった。

「想像したら……ストッキングを脱ぐとか、…エロいだろ…」

そ、それは……私も脱ぎながら思ったけど…。

「もう。自分が自分で脱ぐのにエロいとか無いから…。そんな事…ほぼ毎日家でエロいって事になるよ?」

あっけらかんとした口調で言ったつもりだった。良からぬ想像をして、脱がされたとでも思ったのかな。
脱げかけていた上着やブラウス、スカートを脱がされた。腕をついて、上からじっくり眺めるように見下ろされている気がした。

「あ、何…務?変な想像はしないで…心配するような事は何も…。何もないから」

もしかしたら、残りのこの隠された部分に何かあると思っているのかも知れない。
ブラを外された。別に抵抗している訳ではないけど、こんな風にされると恥ずかしい。だから露わになった部分を隠そうとした。その手は取られて押さえ付けられた。 そして、…見てる。

「…務…嫌。こんなのは、何だか嫌…、恥ずかしい…そんなに見ないで」

…務、ずっと黙ったままだ。疑ってるの?なんて聞いたら、何も無いのに、そんな事考えていたのかと思われてしまう。

顔が下りて来て唇がいきなり触れた。その強い刺激に、身体が疼くようなビリビリとした切なさが走り抜けた。そのままで右手が包み込むように胸に触れた…。務…、これは、何かの確認なの?そこまで不安にさせたの?
だからこんな風にされてるの?
片膝を立てさせられた。顔が沈み込んで内腿にぴりっと痛みが走った。

「あっ…」

思わぬ痛みに声が強く出た。

「ぁ……ごめん。紫…ごめん。柔らかい場所だから痛かったか…あぁ…ごめん」

…こんなのは、嫌。

「…はぁ。紫は俺の紫だよな…ごめん。目茶苦茶、嫉妬したんだ…はぁ、ごめん、悪かった、ごめんな」

痛みが走った辺りに優しく唇が触れ続けた。ショーツをするりと剥ぎ取られ、脚を抱えられた。上に向かって徐々に身体に唇を這わせると抱きしめられた。
こんな…疑いなんて…、務もだけど、私も思ってる。こんな思いまでして、何もあのお店に靴を頼む必要なんて無いって。
でも務が想像したような事は無い…。不意のキスはされたけど。
どこかで、伊住さんという不思議な人が作り出す靴、伊住さん自身に、興味や、何か解らないモノに引き付けられているところはあると思う。だから、行ってしまう。だから知らず知らず心を侵食されてはいけない。


「…紫」

はぁ…務の行為が優しい。さっき少し荒々しくした事の詫びなのだろうか。疑った事も…。私の身体…全身隈なくと言っていい程愛されている。狂おしい程愛おしくされて、何度も抱かれた。
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