愛されたいのはお互い様で…。

「務…あのね、採寸も済んだし、デザインも決まったから…後は出来上がるまで、お店に行く用はないからね?」

「仕上がりまでは行かなくていいって事か?」

「うん…そう」

着手するって言ってた。…あれが…着手金代わり…。

「そうか…なんだ、そうか。…何だよ、そうなのか」

急にすりすりと音がしそうな頬擦りをされた。唇が弾むように二度続けて頬に触れ、唇に触れた。あ…務…。安心したんだ。

「ごめん、…はぁ、…大事にしなきゃな…」

抱きしめられた。

「え」

「ん?当たり前にこうしてるけど、…当たり前じゃないんだよな…。俺のモノみたいにしてるけど…。片方の思いだけじゃ…俺も紫も好きじゃなきゃ、こうして居られない。こんな事、できないだろ?」

「あ、えー、うん。…どうしたの?……何かあった?」

「…ん?…」

何かあったなんて聞いたけど、伊住さんの事とか、何か思うところがあったのは確かだろう。聞く方が間違ってる…。
私が靴屋に行く事、心配だと言って…ヤキモチだと言って…。もしかして、私が靴屋に行く度、徐々に伊住さんに惹かれて…、それでその内、務に別れようとか言うとでも思ったのかな。

「無いけどさ…紫…。…俺と一緒に居たいと思ってる?」

「え…どういう意味で…」

もしかして結婚の事?でも、その言葉、はっきり言った訳じゃない。

「これから先もずーっと、俺と居たいかって事」

そうなのかな。でもはっきり言わないなら漠然としか答えられない。違ったら務の負担になる…。

「明日も?」

「…フッ、明日。…そう、だな。…全く…紫は。明日も明後日もその次も、またその次も、ずーっとって意味だ」

「務…え、…ねえ?これはプロポーズなの?」

あ、思わず聞いてしまった。少し首を起こして務を見た。

「違うよ…」

「……違うの?」

身体に乗せるように抱き寄せられた。プロポーズじゃないなら、聞いた意味は何?…。取り敢えずこのままのつき合いはずっとって事?

「…違う。しいて言えば確認だ。俺との先は、考えた事はあるのかなと思って」

結婚って言葉、わざと避けてるのかな。私の気持ちがどんな好きなのか、確認…。え?答え方によってはお互いの気持ちが違うかもって事?

「…一日一日を区切って思ったら、一緒に居たいと思う、居られて良かったって思うよ?…」

「…そうか」

まだプロポーズではない。一日単位か…明日はどうなるか解らないって心境で紫は毎日居るのか…。そうさせているのは…俺か。俺だよな。何もこれからの事を話してないから。

「え、だって…、こんな話、した事無かったでしょ?」

こっちから聞いて、重くさせても…そうなったら、今がどうなるかも解らなくなってしまう。だから務にはどう考えているのか、聞き辛い事でもあった。

務は前向きに、これからの事を考えて、何か心を決めたかった…。
聞かれた私は、心がざわざわと不安になっていた。

「そうだな…無かったな」

俺と居て不安か?そんな言葉では聞けない。そう聞けば、反射的に不安ではないと答えてしまうだろう。
< 43 / 151 >

この作品をシェア

pagetop