愛されたいのはお互い様で…。
催促でも何でも無く、そしてお客だから、伊住さんの携帯にメールをしてみた。
あれから一週間程経っていた。足型は出来ているのか。革をカットしたりしているのか。
出来上がりを想像すると凄く楽しみになって、少しでも捗っているといいなと思った。
【お世話になってます。催促ではありませんが進み具合はどんな感じでしょうか。真瀬紫】
まあ、ね…メールした事が催促になると言えばなってしまうのかな…。初めての携帯での連絡だ。見るだけで返事は無いかも知れない。
こういう物にどんな対応をする人なのか、それも解らない。
ブー、…。あ、来た。
【まだ全然ですよ、ごめんなさい。紫さんの前のお客様の対応に手間取っています。Gin】
あー…。ホストのように接して来るというあのご婦人の事かな…。
完全に終わってから、次の仕事に取り掛かるという感じなんだ。同時進行とかはしないんだ。
…Gin、というのは、単に店名の省略なのか、伊住さんが銀と呼ばれているからなのか。入力が足りなかっただけなのか。
短いメールの内容は聞き返したい情報ばかりだけど。
…。
【落ち着いてからで構いませんから】
【追加の着手をしに来てくれないのですか?】
…え?…。あ。それって。
【お茶や話をしに寄る事でしたね】
【そうですよ。ちっとも来てくれない】
…ハ、ハ、ハ。…それはね…。迂闊には行けなくなりました、伊住さんのせいで。
務には出来上がるまでは行かなくていいと伝えてある。
【あまり遅い時間にお邪魔する訳にもいきませんから】
行かない事、仕事を理由に逃げたと、多分、簡単に見透かされているだろう。
【構いませんよ、何時に来て頂いても。送りますから】
はぁ、そう来たか…。そういう心配じゃない。こんな、返事に対する返しは容易い。よくある逃げ口上の範疇だと思っている事だろう。
きっと、してやったりとか思って、ほくそ笑んでたりして…。…ん゙ー。んー。
会社が休みの日に来ればいいとは言って来ない。私も仕事帰りに寄る方が楽だし…。
【返す言葉がありません】
【私の勝ちですかね?では待ってますよ】
え?何、勝ちとか。言い合いに負けたら行くとも言ってないのに。言葉の遊びかな…。
【来てくれないと、紫さんのはしません。スイッチは永遠にオフにします】
拗ねたふりをして…とても掌握する事に長けていると思う。
こんな言葉をあのご婦人なりに言ったとしたら…。
まあ!って喜んで…ホスト以上…求められてしまうだろう。ちょっと敬遠してるようだったから、言っては無いのかな。