愛されたいのはお互い様で…。

メールの返事はせず、放っておく事にした。オフなら、オフにされても仕方ないと思う事にした。


部屋に帰ったら階を間違えたのかと思った。ドアの前に綺麗にラッピングされた花束があったからだ。大きくて…仰々しい。

これは一体、何事…。
業者の配達では無い事は明らかだ。不在で置いて帰ったりはしないだろうから。そうなると直接誰かが置いたという事だ。
ワインレッドの薔薇…。色から思い当たるのは、一人しかいない。
花をくれそうな人は務だけしかいない。でも務ではないと思う。そうなると伊住さんしかいないって事になる。消去法で決めている事が…何だか空しい。
花束にはカードも何も無いから誰からとも解らない。携帯を見たけど、何も連絡は入っていない。
どこかの慌てん坊さんが、彼女の部屋と間違えたのかも知れない。私の部屋の前にあっても、私宛てだと思うのも…違うかも知れない。
とにかく部屋に持って入って水につけた。

深紅の薔薇…。花を貰わない私は、一番贈られる花の花言葉さえ知らない。少し検索して見た。

薔薇は男性が女性に贈る花としては断トツの一番だと思う。そして、贈る相手に合わせてその気持ちからカラーを選んだりするモノだろう。
深紅…なんて情熱的な色をくれたのかしら。赤よりも濃く暗い、ワインレッド…。

赤、ピンク、白…あった、深紅。意味は…。
『すべてが欲しいです』『深い愛情』とある。

…。

花言葉なんて意識したのかな。伊住さんなら、靴の色がワインレッドだし、それに掛けただけかも知れないし。
…本当…多くを語らず、相手に考えさせる人なのよね。気持ちを思い起こさせるというか…。
これが、意味のあるモノと取るなら、…意味が無いモノだと取るなら、で、こちらの気持ちは計られてしまう訳だ。自分に気持ちがあるのか、無いのか、…考える事で興味を持たせるきっかけにもなる。

今のところ解るのは、どこの誰だか解らない人が、この部屋に置いた薔薇…って事だ。
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