愛されたいのはお互い様で…。

私は本当に用が出来たのだ。今から務の部屋に行って見よう、そう思っていた。
あれからなら、女の人だって、もう慌てて帰しているだろう。あの時部屋に居たとしても、今は務一人だろう…。

…はぁ、私は何か、そういうイメージなのかな。どこか、簡単で、だらしないような女に思われてしまうのだろうか。だとしたら、大いに問題ありだ…どうしようも出来ないけど。

電話に出た務は外では無かった。そんな静かなところがあるのかって、突っ込みたくなる程、何の音も拾って無かった。
凄く近くで聞こえた、葉月さん、と呼んだ声は、女性だった。…黙らせる為にだろうか、慌てた感じで掛けた、シーツが擦れるような音がした。
そして、シー、だ。


…務。部屋に来た。ピンポン。インターホンを押した。

…。出ない。息を殺して居るのだろうか。それとも二人で本当に留守にしちゃったの?

ピンポン、…。

外に来てる女なんかいいからって、無視して、二人で居るの?

ピンポン。

しつこいな、煩いって思ってる?今…最中なんだって。
ふぅ…。
帰ろう。…お腹が空いてきた。
お店にも寄って傘を受け取って帰ろう。務が持って帰って無くて良かったよ。


傘を受け取りにお店に寄ると、いつもの従業員の男性が気がついてくれた。

「ごめんなさい。忙しい時間にうっかり寄ってしまって。傘を受け取りに来ました」

「はいその…傘なんですが、あれは、男性の方が取りに来ましたよ?知り合いだって言うので渡しました。あ、嫌、駄目でしたか?傘の事で嘘をついて迄持って行く人は居ないだろうと思って。あの…何か聞いてませんか?」

…男性?

「ごめんなさい、その男性は一緒に来た事がある男の人とは違う人って事、ですよね?」

務の事ならこの従業員は知ってるはずだから。

「はい。そうですね…長身で、物腰が柔らかくてイケメンで、紳士っぽい感じの人です」

「解りました、大丈夫です。渡した事、気にしないでください、解りましたので」

「本当ですか?…はぁ、良かった。次からは気をつけます、勝手な判断をしてお渡ししてすみませんでした」

「いいえ、知り合いの人に間違いありませんから大丈夫ですよ。…忙しそうだから、戻ってください。また一人で来ますから、その時はよろしくね」

「はい。すみませんでした、また、是非、いらしてください、お待ちしてます」

「有難う」

…はぁ。引きこもりになってしまいそう…。
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