愛されたいのはお互い様で…。
いけない。務のところに行かないといけないんだった。
「あの、伊住さん、嘘ではなく、私、今から用が出来てしまって、出掛けないといけなくて。
あまり時間がありません」
まだ着替えだってしていないままだ。
「うちを出た時は、用は嘘だったでしょ?」
それは…嘘のような…、帰る理由です。でも務のところに行った。
「本当に今から用があるんです」
「解りました。とにかく、履いて合わせてみてくれますか?」
「あ、はい」
袋から箱を取り出し、開けた。白い紙に包まれていた。革の匂いがする。紙を広げて見た。
「…あ。私の靴…。凄く素敵…あ、ここ…」
決めたデザインよりも、もっと良くなっていた。
「はい、勝手に甲の部分、小さく丸く型抜きしました。デザイン性もですが、通気性も兼ねたつもりです」
甲の端、くりの部分が二重に小さい丸で間隔を空けて打ち抜かれていた。抜かれた穴が二連のネックレスのように見える。
「履いてみてください」
「…はい」
ゆっくり足を入れて左右ともストラップを留めた。伊住さんがいつの間にか両手を下から支えていた。
「少し、足踏みをしてみてください。…どうですか?痛いところや、違和感があるところは無いでしょうか?くるぶしの辺り、痛くありませんか?」
ゆっくり足を上げ、踏み締めるように、右、左、…右…と足踏みをした。踵も上げ下げしてみた。
「…どこも、…何も。…同じです。お店で試し履きした時みたいに同じ。包み込んでくれるみたいに楽だし、…軽いし。凄く…どこも違和感はありません」
「ほぅ、良かった。私にしては急ピッチで仕上げた事もあって、少し不安でした…これでほっとしました」
「…伊住さん」
早く仕上げてくれたんだ…。何故?
「言ったでしょ?作るのは私。だから私次第だし、…紫さん次第だと」
「…あっ。今日、お金の用意が出来てません」
「それはいいですよ、私が突然伺いましたから」
「ではどうしたら。あ、そもそも、おいくらなのかも」
「まだです。まだですから」
「え?」
「代金は、黒も出来てからの請求ですよ?」