愛されたいのはお互い様で…。

朝、名前を呼ばれ、頬やおでこにキスをされ、甘く起こされた。
私、会社がある日なのに…はぁ、うっかりそのまま寝てしまったなんて…。
この起こされ方って、伊住さんの努力?…無理をしない努力、かな。元々こういう事を望む人だと思う…。

「ご飯は出来ています。部屋に帰って出勤ですよ。さあ、服を着てください。…はい」

甘いのはそこまでで、しっかりしない私は激励された。


怠い身体で、行ってきますと言ったら、抱きしめられて甘いキスをされた。

「気をつけて、行ってらっしゃい」

見送りは甘かった。
…週末から浮き沈みが激しいというか、変化があり過ぎた時間だった。

「紫さ〜ん。時間〜」

あー、のんびり歩いているから心配してるのね。
時間はまだ大丈夫……ん、え、…務から…着信がある。…昨日だ。…。
とにかく、今は、急いで帰らないと…遅刻は駄目だ。間に合うけど足早になった。
振り向いたら、伊住さんが手を振っていた。
早歩きになったから安心したんだ。


務の着信は昨日の夕方の物だった。
夕方と言ったら、…もしあれから夏希さんが務に会っていたとしたら、…何か、その事であったのかな。
今、落ち着いて読んでいる時間がない。
開けずに、返信だけをした。

【着信に気がつきませんでした。まだ内容を見ていません。帰ってからになります】

仕事を優先したみたいになるけど、今は、どんな内容か…想像のつかないモノを慌てて見たくない…、ごめんね。
まだ見てないって伝えたら、今のこの気持ち、務ならきっと解ってくれているはず。何かしら仕事に影響してはいけないからって。
務だって落ち着いて見て欲しいと思ってるはずだから。

見ていないままでも仕事をしている間メールの事がずっと気になっていた。務からは追加の連絡はなかった。
思えばまだ、務にさようならと伝えて一日二日しか経っていないんだった…。さようならの返事はないままだ。
…私は…もう新しい恋を始めてしまった事になるのかな…。伊住さんと関係を持ってしまった。気持ちは聞いた。随分、奔放な事をしている…。知れば務にもそう映る事だろう。…節操のない女だって。私はもう別の人と関係を持ってしまった。
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