彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
「俺と薫の祖父はイタリア人なんだ。幼い頃からハグも当たり前の家庭で育っていて。でも、普段は気を付けていたんだけど、あの時は薫が泣いていてつい。すまない。気分が悪いよな」

副社長はクォーター?
言われてみれば、納得の顔立ちにスタイル。

「薫は林が早希の事が好きなんじゃないかって疑っていたんだ」

「えっ?どうして?」
思ってもいない副社長の言葉に驚く。そんなことあり得ない。

「早希、外で林と会っていた?」

「ええ、副社長もご存知のはずです。林さんとは副社長と約束していて私と連絡がつかなかったって心配していただいたあの日のBarで会いました。副社長の指示だって言って林さんに送っていただきましたけど、それ以外はありません」
うん、と副社長が頷いた。

「他には何も。あ、でも、社長命令で副社長と初めて食事をした時は林さんの車であのお店に連れて行ってもらいました。それもカウントしますか?」

「いや。電話やメールのやりとりは?」

「社長命令で副社長との会食の日にちを決めるために何度かやり取りしていますね。
あとは、神田部長の指示で社長のスケジュールを押さえるために何回か電話をしています。プライベートでは一度もありません。それが何か問題があるんでしょうか?」

私は少しむっとしていた。

薫と林さんとの間に何かがあるとしても、私とは関係がない話だ。私は業務で社長秘書と連絡を取っていた。
それなのに私が事情聴取されるような事になっているのはおかしくないのだろうか?

「ああ、早希ちょっと待って、怒らないで」
副社長はご機嫌を取るように私の手を自分の口元に運び軽くキスをした。
その仕草に驚く。
が、外国人だ。

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