彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
「一緒なんだよ。気が付かないか?薫と林。早希と俺」
「え?」

どういう事?
戸惑う私をそっと抱き寄せ耳元で囁いた。

「早希、愛してる。俺には君だけが必要なんだ」

そして、軽く優しくキスをして離れた。

「初めからわかるようにしっかりと伝えていればよかったんだ。俺も林もね」
優しく頭を撫でられどうしていいのかわからない。
副社長が私を愛してるって?


突然、私はウエスト辺りを、副社長は胸に手を当てた。
同時にスマートフォンが鳴ったのだ。

急いで取り出し画面を見ると『第一秘書杉山さん』
『午後の仕事は13時からA会議室によろしくね。今日は残業なしだから、続きは終業後にどうぞ』

私のはメールだったけど、副社長は電話だったらしい。

副社長は舌打ちして電話に出た。

「・・・はい。ええ、わかってますよ」
副社長の電話も同じ内容だろう。

「早希、時間切れ。今日の仕事が終わったら続きを話そう」
私を抱き寄せて軽くキスをした。
「わかってると思うけど、逃がさないからね」
口角を上げているけど、副社長の目は笑っていない。真剣な表情だった。

私は戸惑いながらも微笑んだ。
「逃げませんよ。私も副社長に聞きたいことがありますから」

そしてまた、キスをしようと顔を寄せると、
コンコン
社長室にノックの音が響いた。

驚いて私は飛び退き、副社長が嫌そうな顔をしながら「はい」と返事をした。

「社長秘書の杉山でございます。入ってもよろしいですか?」

急いでドアを開けると、トレイに2人分のコーヒーとサンドイッチを持った杉山さんが微笑んでいた。

「あと10分でお昼休みが終わってしまいます。お昼ご飯を抜いては午後の業務に差し支えるますので、お二人共急いでお召し上がり下さいませ」

テーブルにさっとトレイを置いて私たちにランチをすすめた。
「はい、時間がありませんよ」
杉山さんは笑顔で急かした。

「杉山さん、ありがとうございます」
副社長と顔を見合わせ、2人で急いでサンドイッチを口に運んだ。

「あ、サンドイッチは神田部長さんからの差し入れです」

杉山さんのひと言に私はサンドイッチを食べる手が止まり、副社長は眉間にしわを寄せた。

あのタヌキの思い通りに動かされているらしい。
全てはタヌキの手のひらの上。

2人で顔を見合わせてため息をついた。

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