彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
it's there

社長と杉山さんの後に続いてA会議室に入ると、先に会議室に向かった副社長をはじめとする今回のプロジェクトメンバーが勢ぞろいしていた。総勢12人。

私は社長からこのプロジェクトのサポートの入るように指示されていた。今後副社長と私の間がどうなるのかわからないのに、これからしばらく副社長と一緒に働くのかと思うといろんな意味でドキドキする。

ニヤニヤしている高橋と目が合い、思い切り顔をしかめる。後で覚えてなさいよと睨んでやった。

まず副社長から挨拶があり、その後、各社代表者からメンバー紹介があった。

その後は滞りなく会議が進んでいく。さすがはやり手と呼ばれる社員達だ。
しかし、私はこのプロジェクトの内容について知らされたのはつい先ほど。
こんな無知なままではプロジェクトメンバーのサポートなんて出来やしない。
会議の議事録作成は申し訳ないけど杉山さんにお願いした。
私は必死にメモを取りながら資料片手に会議内容を頭に叩き込んでいたからたった3時間の会議でもうくたくただ。

最後に神田部長が
「本来なら今日の夜に懇親会を開催する予定でしたが、諸事情により明日の夜に変更しますので、今日は各自英気を養って下さい」
と私の顔を見ながら笑顔で話した。

玄関ホールでの副社長と私の騒動は目撃者が多くて既になんらかの噂になっているらしい。

私は恥ずかしさで唇を噛むことしかできない。

このタヌキ~。

今日と明日は残業なしと社長から宣言されていたため、定時で終了した。
会議が終わると、早速高橋が私の元にやって来た。

「よぉ、谷口。久しぶりだな。元気だったか」
「高橋。連絡しなくて悪かったわ。本当にごめん」
私は拝むような仕草をして、肩をすくめた。

「本当だよ。冷たい女だな。由衣子には連絡してたんだろ?」
目を細めて軽く睨まれるけど、高橋が本気で睨んでいるわけじゃないのはよくわかる。

「ううん。最初は由衣子にも全く連絡してなかったの。連絡したのはしばらくしてから。だから、由衣子を責めないでね」
「わかってるよ。それより今・・・これ以上は怖くてお前と喋れねぇから、またな」
そう言って、チラッと私の斜め後ろを見てさっさと私から離れて行こうとする。

「ちょっと何よ、何なの怖いって。待ってよ、まだ話してる途中でしょ」
思わず高橋の腕を引っ張ったら、引っ張っている私の腕を誰かが優しく掴んだ。

わっ、副社長。いつの間に後ろに?

ギョッとする私を無視して話し出す。
「さぁ、早希、約束の時間だよ。帰る支度はどうしたの?荷物はどこにあるの?」

あれ、優しい口調と笑顔だけど目は笑ってない気がする。

「じゃ、康史さん、谷口、お疲れさま。また明日」
私を置いてさっさと高橋は逃げていった。
< 104 / 136 >

この作品をシェア

pagetop