彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~

私がビクッとすると
「お願いだから、少しだけ口を開かないでいてくれ」

副社長の震えそうな声に私は黙って静かに目を閉じた。
抵抗するだけの力ももうないし、そもそも私は出来ることなら副社長を拒絶したくはない。

目を閉じて自分の心に問いかける。
副社長が大好き。離れて過ごした日は苦しくて辛かった。でも、副社長の側にいる自信が無い。私は何も持っていない。
このまま側にいても不安が付きまとうだけ。

そんな私の想いを無視して副社長は首すじや胸元に優しく唇を這わせていく。
優しく優しく丁寧に。

あの日の夜のようだ。このまま私のことを抱くつもりなんだろうか。
疲れ切った身体に副社長の温かい身体の重みと唇の感触が心地よい。先のことは考えないでこのまま、ずっとこのままでいたい。

副社長の感触に浸っていると、不意に身体の重みがなくなり唇が離された。

ぬくもりがなくなり淋しさが襲ってくる。
ゆっくりと閉じていた目を開けると、目の前には悲しげな瞳で私を見つめる副社長がいた。
私の知らない顔。こんな弱々しい瞳の副社長は見たことがない。胸がずきんと痛む。

あの頃より長く伸びた髪。うっすらと目の下にはくまが浮かび、顔のラインも前よりシャープになったみたいだ。
彼は苦しげに眉間にしわを寄せた。

「早希、苦しいんだ。俺にこのままずっと早希と離れて暮していけっていうのか?俺を殺したいの?俺が愛してるのも、俺に必要なのも早希だけなのに。早希だけが必要なんだ」

他の誰かに副社長のこんな顔を見せたくない。
絶対に、絶対に、絶対にいやだと思った。

「早希、他には何もいらないんだ。俺を受け入れてくれ。今はもう早希が俺の生きる意味なんだ」

その途端、私の抑制していた何かがぱんっとはじけ飛んだ気がした。

「康史さん、大好き。愛してます。そばにいたい」

私は彼の背中に腕を回して力を込めて彼の胸に顔を埋めた。

どうしてこのまま離れられると思ったんだろう。
こんなに私の心も身体もこの人を求めてるのに。
この人にこんなに求められて離れられるはずがないのに。

ぎゅっとしがみつく。

はあっ。

頭の上で大きな声がしてびっくりして顔を上げると、顔を歪めた副社長と目が合った。
え?あれ?
もしかして泣きそうな顔?

「やっとかよ。この強情っぱり」
そう言うと、荒々しく私にキスをしてぎゅうぎゅうと私を抱きしめた。

抱きしめられて副社長の香りとぬくもりを感じる。
私の1番欲しかったもの。

涙がこぼれる。。
「もういらないって言っても離れてあげませんけど、それでもいいんですか?」
彼の首すじにキスをしながら問いかけるけど、副社長からは返事がない。

あれ?
私、間違った?
や、やっぱり私が思ってるような一対一のそういう関係じゃなくて、身近な遊べる相手ってことだった?
サーッと背中に冷たいものが走る。

上目遣いで副社長の顔を見ると、目を見開き驚いたような顔で私を見ていた。
パチッと目が合うと副社長の顔がほんのり赤くなった。

ええ?何?

「まさか、早希がそんな事言ってくれるなんて」
副社長の驚いていた表情がみるみるうちに笑顔に変わり私の胸に顔を埋めてきた。

「ねぇ、早希。もう一度言って」

甘い声で囁きながら唇と手で私の身体のあちこちを刺激しはじめた。

んんっ。

「副社長、んっ、ああっ」

もう無理です。そんな余裕ない…。


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