彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~








んんっ、身体が怠くて頭が痛い。からからに喉が渇いていてヒリヒリする。

寝返りをうつとかけていたシーツが身体からスルリと外れて肩が露出してしまい室内の空気にさらされる。もう寒い季節じゃないけれど、素肌では涼しすぎる。

ん?素肌?

薄ぼんやりしていた意識から一気に目が覚めた。素肌??素肌って・・・・素肌!?


ここはどこ。

横になったままキョロキョロと周りを見ると実にあっさりとしたシンプルな部屋で、ハッと息をのんだ。

ああ、なんてこと。

そうだ、私・・・あのままあの男性と。


ホテルのダブルベッドで衣類を何も身につけることなく横たわっている私。
そして、バスルームからはシャワーの音がする。
ベッドの横のソファーの背もたれにはには2人分の衣服が無造作に掛けられている。


・・・マズい。

これは非常にマズい。

信じられないことだけど、これは完全にクロ。
酔っていて流されてしまったとはいえ、見ず知らずの人となんてことを・・・。

ザーッと血の気が引いていき、酔いはすっかり覚めている。

これを世間では『一夜の過ち』という。

やってしまった。

あの人がシャワーから戻ったら、どんな顔をしたらいい?

何か話をする?
こんな時、どうするの?

身の置き所がない。どうしよう、どうするのという言葉だけがぐるぐると回る。
回らない頭で考えたついたことはただひとつ。

『あの人がシャワーから戻る前に逃げてしまおう』だ。

ベッドから下りてソファーに置かれた衣類を手早く身につけ、室内を見渡す。
バッグを手に取り、忘れ物がないか中を確認してパンプスを探す。

まだ、バスルームからは水の音がしている。

さぁ、早く、早く部屋から出ないと。

飛び出そうとして、ふと立ち止まり室内に戻りデスクのメモにメッセージを残した。

『ハンカチをありがとうございました』

そして、今度こそ急いで部屋から出て小走りでエレベーターに向かった。

エレベーターに乗るとあの人と会わずに済んだことにホッとして思わず座り込んでしまった。

もう、何やってんだ、私!

一夜限りのお付き合いなんて私の人生はじめて。
いや、もう二度とない。

絶対に!



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