彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~

「ヘッドハンティングですよ。問題ありません。ちょうど増員を考えてましたし」
そう言って自分の膝に座る真彩の顔を覗き込んだ。

「真彩ちゃんは幸せだね。こんな美味しいものを毎日食べられて」
「うん、ママのご飯大好き。康ちゃんのはいつも誰が作ってるの?」

真彩の質問に思わず私も副社長の顔をジッと見つめてしまった。多分うちの両親も姉も。

「1人で住んでいるから、自分で作ったり外のお店で食べてるよ」
「誰か作ってくれないの?」
「いないんだよね」
副社長は苦笑いだ。
副社長の返事にホッとする私がいる。
食事を作りに来る女性はいないって思っていいのかな。

「僕は早希ちゃんに作りに来てほしいんだけど。真彩ちゃん、早希ちゃんを僕にくれないかな」
「康ちゃん、早希ちゃん欲しいの?」
「うん、そうなんだ」

は?

副社長はニコニコしながらさらっと真彩に妙なことを言ってる。
真彩もニコニコしながら返事してるし。

「副社長、もしかして、かなり酔ってます?」
慌てて副社長の隣に座り顔色を見るけど、赤くもなくいつもと変わらないようだ。

「アルコールに強いのは知っているでしょ?酔ってないよ」
いや、でも発言がおかしい。確かにBarでもホテルでも一緒に飲んでいて、いつもあまり変わらないからアルコールに強いんだなとは思っていた。

「康ちゃん、早希ちゃんのこと好きなの?」
真彩は無邪気に直球で聞いていた。

「真彩っ!」な、何てことを...。副社長の膝に座って足をぶらぶらとさせる真彩を慌てて抱きかかえた。

「やだー、早希ちゃん。真彩、康ちゃんのお膝がいい」
ぶーっと口をとがらせて文句を言う真彩に「もう遅いから寝なきゃだめ」と強制退場を促した。
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