彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
口直しはモヒートで

康史さんが本社に戻って一ヶ月。
私はTHコーポレーションの高橋社長とタヌキ・・・いや部長の特別な計らいで出向という形でアクロスに戻れることになった。

お二人には足を向けて眠れない。

両親も姉も快く私を送り出してくれた。
私があのまま恋も仕事も諦めて実家にいる方が家族の重荷になってしまうという家族の主張も理解できた。

特に姉は「早希ちゃんが東京にいてくれた方がありがたい」と言うので、なぜかと聞くと、
「将来、うちの子供たちが東京に進学や就職をしたいって言いだしても早希ちゃんが近くにいると思ったら安心でしょ」
そう言った。私もかわいい姪と甥の世話なら喜んでするだろう。



そうして、今日私は東京に戻ってきた。
引っ越し荷物はすでに康史さんのマンションに届いているはず。

康史さんは実家まで迎えに来ると言ったけど、それを断ってひとりで新幹線で東京駅に降り立った。
これは私なりのケジメだ。

いろいろと誤解やすれ違いがあったけれど、話し合いをすることなくひとりで逃げ出したのは私だ。
だから、ひとりで戻って来ようと思ったのだ。

私は家族や友人、会社の上司達からたくさんの信頼と愛情をもらい今ここに立っている。
それを今後、裏切ることなく私も恩を返していこうと思う。

康史さんとの待ち合わせはこの東京駅でも自宅マンションではない。よく2人で行った会員制のあのBarだ。
今日は仕事を早く切り上げてくれたらしい。もう到着しているとメッセージが届いていた。









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