彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
月曜の仕事を何とか残業1時間で終えて由衣子と待ち合わせしている居酒屋バルに向かうと、先に由衣子が着いていた。
「え、早希ったら何その顔」
さすがに由衣子には隠せないらしい。厚いメイクで隠したつもりだったけど隠せなかった。
「実は・・・」
一夜の過ちの話は除き、稔と別れたことを話した。
「な、何それ。早希はこの先結婚だって考えてたでしょ?何でいきなりそうなるのよ」
わけがわからないって顔をして由衣子はビールのジョッキを握りしめていた。
「うん、私もわけがわからない。稔だって『そろそろいいかな』って言ってたし」
お通しのひじきの煮物のニンジンを箸でもてあそぶ。
「それで早希は納得したの?別れたいって言われてはい、いいわよって言ったの?」
「そんなはずないじゃない。でもさ、妊娠したんだって」
「誰が」
「私と稔の大学のサークルの後輩で稔と同じ会社にいる里美って子」
「は?二股?それとも略奪?」
由衣子の綺麗な顔がいきなり厳しくなった。
「・・・それはどっちかわかんない。でも、実際里美は妊娠してるっていうし」
私はニンジンを苛めるのをやめて箸を置いた。
「は?妊娠って?まあ、酔って彼女に迫られて関係しちゃったって可能性もあるか」
そんな由衣子の言葉にドキッとした。
それは・・・一昨日の私。
迫ったわけじゃないけど。でも、結局あの人に身も心も慰められた。
それでも、自分と里美を同列に見るのはいやだ。
少なくとも里美は稔に私という彼女がいるのを知っていたのだから。
もう里美のことは名前を口にするのも嫌だった。
稔の事も里美のことも考えたくない。