彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~

予感

翌日出社すると、早速秘書室から社内メールで抽選会の賞品受け取り希望日時の問い合わせが来た。

私の仕事のスケジュールを考え、なるべく直近でとお願いすると、『本日15時に社長室にて』と連絡がきた。

どうやら社長の今日のスケジュールにキャンセルが出たらしく社長の時間が空いたようだ。

いきなり今日か。
服装、ヘアメイク、大丈夫かな。

昨日は週末のことがあり体調不良であまり飲んでないし、由衣子に話したことで妙にすっきりしてよく眠れたから、顔色は多少回復してる。後は、化粧直しをしてよしとしよう。

部長に声をかけて席を外す。

「社長室か。気合いを入れて行ってらっしゃい」と激励を受けて社長室のあるフロアに向かった。

エレベーターを降りて秘書室に向かう。
この高級感漂うふかふかした絨毯には慣れない。ヒールが埋まってしまって歩きにくい。これが同じ社内だとは思えない。

秘書室のドアをノックしてそっと開けると、同期の田辺薫の姿が見えた。
すぐに私に気が付いて薫が席を立ってこちらに来てくれた。

「いらっしゃい、早希ちゃん。聞いているわよ。社長室に連絡するね」

薫は同期入社の中でただ一人秘書室配属になっていた。
美人というより非常に可愛らしい。ほわほわとして洋菓子のよう。

秘書室には男性、女性どちらもいるが、配属されている女性のほとんどはキリリとした美人が多い気がする。
この中でふんわりとした薫の存在は異質に近い。

「今、社長秘書がお迎えに来るから、ちょっと待っててね」

そう言って内線通話をすると、すぐに30代前半かと思われる長身の高そうなスーツを着こなした素敵な男性が秘書室に入ってきた。

「あなたが谷口早希さんですか」

「はい、谷口です」

「社長秘書の林です。では、社長室にご案内します」

「はい、あ、あの特別にお時間を取らせていただいて申し訳ありません」
< 18 / 136 >

この作品をシェア

pagetop