彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
木曜日、副社長と会食するお店には林さんが付き添ってくれるというので、就業後に地下駐車場で待ち合わせをした。
社用車ではなく林さんの車だった。
車に乗り込んでから林さんに聞いた。
「で、社長は副社長に今日の事を何と?」
林さんは私を見ることなく真っ直ぐ前を向いたままだ。
「社長に確認したのですが・・・」
次の言葉を待つが、なかなか次の言葉が来ない。
「林さん、早く教えて下さいよ」
なぜ焦らすの?「教えてくれないと降りますよ」と脅迫してみた。
「冗談でもやめて下さいよ」
さすがに少し焦ったらしい。ふぅっとひと息入れた。
「抽選会の賞品の食事と言ったそうですよ」
「そのまんまじゃないですか」
「いいえ。早希さんに言ったものとはちょっとニュアンスが違うんです」
林さんはハンドルを握り直すような仕草をした。
「どういうことでしょう?」
私は抽選会で2等を当て副賞で『副社長と会食』する食事券が付いてきた。
「副社長も抽選券を持っていまして」
「はぁ」
どう話が進むのかわからずとりあえず肯く。
「あの日、副社長は5等が当たったんです。ですが、副社長はその場で辞退されて他の社員でまた抽選をし直したんですが」
「はぁ」
「本来当選していたのだからやはり賞品を受け取るべきだと言ったらしいです」
え?
「私もこじつけだと思っていますよ」
ちょっと待って社長ったら。一体どうしてそこまで?
「結局、副社長に『これは5等の賞品だ。なんでもいいからとにかく2等の谷口早希さんというお嬢さんと食事をして来い』と言ったという話なんですが」