彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~

「もー、だから『タヌキの飼育係』って言われるのよ。バリキャリにならないまでももう少し仕事に真摯に向き合うっていうかさ、何て言うか。飼育係じゃなくて、とにかくしゃんとしてちょうだい!」

由衣子は美人で海外事業部でバリバリ働く自立した女性そのものって感じ。
対する私は由衣子の言う通り、決して頑張ってないわけじゃないけど、あまり仕事に身が入っていない女子社員。

『タヌキの飼育係』か…。

私の上司の神田部長。ふくよかな体型で顔もいかついというより着ぐるみのキャラクターのよう。

いつも和やかにしていて彼の下では皆伸び伸びと仕事が出来ると評判の上司だ。

実際はすぐに仕事をサボろうとする困った人で私はいつも彼のために動き回っている。そのくせ、しかっりと見るところは見ている。部員のミスもフォローも完璧。

社内で彼は密かに『タヌキ』と呼ばれ、彼の下に就いて部長が仕事をサボらないように見張ったり、部長に頼まれた仕事をこなす私は『タヌキの飼育係』と呼ばれている。


プライベートでは学生時代から付き合っている2つ上の稔とそろそろゴールインしてもいいかなと思っている。

でも、このご時世、さすがに寿退社など考えてはいないけど、責任ある仕事をしたいというよりは、そこそこ働いてキチンとお給料が欲しいという感じ。

私とは別の企業で働く稔もかなり忙しいらしくて、最近は会う時間が減ってきたり、電話連絡も少ないけれど私との未来のために頑張って働いてくれていると思えば我慢ができる。


立食パーティーだからどこにいても自由なんだけど、次第に美人で華やかな由衣子に男性社員が話しかけてくるようになった。

1人、また1人と花に集まるミツバチのように。
由衣子と一緒にいると気を遣うように私に話しかけてくれる人もいるから、申し訳なくなって由衣子には化粧室に行くと小声で告げて歓談の輪からそっと離れた。
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