彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
料理を食べ終わり、食後のお茶をいただいていると副社長が胸に手を当てた。
どうやら電話のようだ。
「どうぞ、私のことはお気になさらず出て下さい」
「ありがとう。済まないね」
副社長は少し迷ったようだけど、席を立ち廊下に出て行った。
個室で1人になり、はぁっとひと息ついた。
部屋に入り副社長を見てから気が動転していて気が付かなかったけれど、この部屋には大きな1枚ガラスの窓があり、きれいに整えられライトアップされたお庭が見える。
もう食事は終わっていたから席を離れても無作法ではないだろう、立ち上がり窓辺に佇んだ。
私は新芽から初夏のいろはもみじの葉が好きだ。紅葉の赤も素敵だけど、清々しく開いた青々としたもみじの方に惹かれる。
今見えるもみじも綺麗に葉が開き深い緑色をしている。木の真上には月が出ていてとても幻想的だ。
満月には少し足りない。
でも、そこがまたいいなと思う。
副社長はあの夜の事をどう思っているのだろう。
一夜の相手がまさか自分のところの女子社員だったとは驚きだろう。
食事前に気分が悪くなった私を落ち着かせるためとはいえ、優しく手をさすってもらった。
動揺していたのに、副社長に撫でられた私はあの夜の優しく逞しいあの人を思い出して気持ちが安定していったのだからどうしようもないダメ女だなと思う。
一夜の相手に惹かれている。
しかも、相手は副社長。
不毛だ。
この食事会をセットした社長を恨みたくなる。
あの抽選に当たらなければよかったのに。現実を知らないで済んだのに。
夢は夢のままでよかったのに。
再会を望んでいたわけじゃない。
あの夜から私はあの人を思い出しては心を震わせ稔の事を考えずその先の生活へと歩む力をもらっていた。
再会して現実の姿を知られたくなかった。
でも、食事も終わったし、この夢からはそろそろ覚める時間。
社長や林さんの話では副社長はかなり忙しいらしい。早くこの私との会食業務から副社長を解放してあげなくては。
社内で副社長と私は接点がない。
だから、このまま何も無かったことにして副社長は忘れてしまえばいい。
私は忘れられそうもない。これからは私だけの秘密の思い出にしていく。
そう。そうすればいい。
私は一人で頷いた。
どうやら電話のようだ。
「どうぞ、私のことはお気になさらず出て下さい」
「ありがとう。済まないね」
副社長は少し迷ったようだけど、席を立ち廊下に出て行った。
個室で1人になり、はぁっとひと息ついた。
部屋に入り副社長を見てから気が動転していて気が付かなかったけれど、この部屋には大きな1枚ガラスの窓があり、きれいに整えられライトアップされたお庭が見える。
もう食事は終わっていたから席を離れても無作法ではないだろう、立ち上がり窓辺に佇んだ。
私は新芽から初夏のいろはもみじの葉が好きだ。紅葉の赤も素敵だけど、清々しく開いた青々としたもみじの方に惹かれる。
今見えるもみじも綺麗に葉が開き深い緑色をしている。木の真上には月が出ていてとても幻想的だ。
満月には少し足りない。
でも、そこがまたいいなと思う。
副社長はあの夜の事をどう思っているのだろう。
一夜の相手がまさか自分のところの女子社員だったとは驚きだろう。
食事前に気分が悪くなった私を落ち着かせるためとはいえ、優しく手をさすってもらった。
動揺していたのに、副社長に撫でられた私はあの夜の優しく逞しいあの人を思い出して気持ちが安定していったのだからどうしようもないダメ女だなと思う。
一夜の相手に惹かれている。
しかも、相手は副社長。
不毛だ。
この食事会をセットした社長を恨みたくなる。
あの抽選に当たらなければよかったのに。現実を知らないで済んだのに。
夢は夢のままでよかったのに。
再会を望んでいたわけじゃない。
あの夜から私はあの人を思い出しては心を震わせ稔の事を考えずその先の生活へと歩む力をもらっていた。
再会して現実の姿を知られたくなかった。
でも、食事も終わったし、この夢からはそろそろ覚める時間。
社長や林さんの話では副社長はかなり忙しいらしい。早くこの私との会食業務から副社長を解放してあげなくては。
社内で副社長と私は接点がない。
だから、このまま何も無かったことにして副社長は忘れてしまえばいい。
私は忘れられそうもない。これからは私だけの秘密の思い出にしていく。
そう。そうすればいい。
私は一人で頷いた。