彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
わたしが逃げないようにと副社長は私の右手をつないだまま離してくれなかった。

触れている場所が熱を持ったように熱く感じる。

手をつながれたままタクシーに乗せられ連れて行かれたのは商業施設の入る高層ビルの最上階のBarだ。

先日のBarより更に落ち着いた雰囲気。
もしかしてここって会員制なんだろうか?明らかに雰囲気が違う。

夜景がよく見える窓際の席に案内されやっと手が離された。

ここは周りに他のお客がいない。話の内容が内容だけに他人に気を遣いながら話をしなくてもよさそうでほっとする。

もしかして、ここからも東京タワーが見えるかしら。
視線だけ動かして東京タワーを探したつもりだったけれど、副社長はそんな私の様子が気になったらしい。

「何か探してる?」

恥ずかしい。田舎者丸出しだ。

「すみません。何でもありません」肩をすくめた。

でも、視線をずらしたその先に東京タワーを見つけた。。

ああ、あった。

あの赤い温かな光だ。
なぜだかかなりほっとした。

気付くと副社長がジッと私を見ている。

「あの、副社長」

「あ、ああごめん。何だかわからないけど、早希さんの表情が変わったからじっと見つめてしまった」

見られていた恥ずかしさに心臓の鼓動が増した気がする。

副社長と一緒にいると身体に悪いんじゃないだろうか。1日に何度も脈拍が急上昇する。
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