彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
私の様子を見た男の子達はお腹を抱えて笑っている。

高橋は呆れたように私を見て、再び男の子達に謝った。

「悪かったね。酔っぱらいは連れて行くからさ」

そう言って、私の腕を持ってぐいぐいと歩き出した。

私から10メートル程離れた所にはうちの部署のメンバーが10人程いて私と若者たちとの一連のやりとりを見ていたらしく、大爆笑していた。
その中には本物の部長も…。


部長は人格者だ。
「いやぁ、早希さんに助けてもらえるとは光栄だ」
そう言って嬉しそうに笑っていた。

すみません、すみません、すみません。私は平謝りをした。
後ろを向いていたとはいえ、信楽焼の狸と部長を間違えるなんて・・・。

思い出しただけで顔から火が出そうだ。

「それにしても、どうして林さんや副社長がこの話をご存知なんでしょうか。
あの翌日にすぐに副社長からもやんわりと『昨日は飲み過ぎたらしいですね。気を付けて下さいね』と言われたんですよ。あまりにも情報が早すぎませんか?」

林さんは笑い出した。
「早希さんは情報源をお知りになりたいですか?」
丁寧な口調とは裏腹に面白くてたまらないという少し意地悪な表情をしている。

「林さん、情報源も知りたいんですが、でもまず先に、私は年下だし役職も林さんよりかなり下なんですから、できれば話し方も変えて頂けませんか?」
そうお願いをした。それは前から気になっていた。

「え、そうですか。でも早希さんは副社長の……だしなぁ」
と少し首を傾けた。

副社長の……って何ですか。

「別に副社長は関係ないんじゃないですか」
そう言ったら
「いや、関係なくはないんですが……では、こうしましょう。副社長の前以外でプライベートな話題はお互い友人って事でどうでしょう?」
と提案された。副社長の前以外でっていうのに引っ掛かりを感じるけど、とりあえずいいのかな。

「私は年下ですよ。友人でいいんですか?」
「会社を離れている時は問題ないでしょう」
「私はともかく、林さんの方は敬語をやめて下さいね」
2人で微笑みあった。
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